「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第40回 2) 勃起機能障害に対するシルデナフィル(バイアグラ)について

  

                                   1999年8月5,15日 

 

 バイアグラは承認前から個人輸入や使用後の突然死などが大きく報道されたが、その価値や使用法が十分理解されていない面がある。イギリスの提携誌『DTB誌』がこの問題を取り上げたので、本年1月号で翻訳して紹介した。その要約を紹介する。

【勃起機能障害の原因】
 男性の約10%はいつかの時点で勃起機能障害を経験する。勃起機能障害は、複合的な原因で生じる。80%で神経疾患や糖尿病、循環器疾患、手術後など何らかの器質的要因があり、25%で何らかの薬剤が関係し、アルコールも危険因子である。14%で心理的因子が主因とされる(注:前立腺癌が隠されている場合もある)。勃起機能障害はまず原因を探索し、可能な限り原因除去や治療を先に試みるべきである。

【薬理学】
 性的刺激で神経を介してNOが放出されるとサイクリックGMP(cGMP)を増し、陰茎海綿体細動脈の平滑筋を弛緩して勃起反応が起きる。
 シルデナフィルはcGMPを不活化するフォスフォジエステラーゼ・タイプ5(PDE5)を阻害してcGMPを増加し、性的刺激に対する勃起反応を高める。性的刺激なしでは無効なのはこのためだ。経口で速やかに吸収され、30〜120分でピークに達する。食事で吸収は遅れる。半減期は3〜5時間。腎障害や高齢者では血中濃度は2倍に、軽〜中等症肝硬変でも1.5倍になる。

臨床試験】
 ランダム化比較試験が二つ実施され、合計861人が対象となった(除外疾患は多い)。532人を対象とした試験ではプラシーボ群、25mg、50mg、100mgで比較。用量依存的に改善した。329人を対象とした試験では50mg群かプラシーボ群かに分け、必要に応じて半量か倍量に変更可能として比較した。
 性交達成平均回数、性交成功率、挿入後勃起持続時間、オルガスム機能、性交満足度などの平均スコアで有意に優れていたが、性交欲求領域では差がなかった。このことは、本薬剤がリビドーを増加しないことを示唆する。

【副作用】
 頭痛、紅潮、胃腸症状、鼻閉、視覚異常や光線過敏などがある。心筋梗塞は短期でも長期でも有意の増加はなかったが、アメリカでは市販以来、服用後の死亡例が69人(註:最近の情報では130人)FDAに報告された。FDAは安全性に関して見解を変えていないが、死因を調査中であるという。

【相互作用と禁忌】
 硝酸剤との併用は重大な血圧低下のため禁忌。エリスロマイシンなどとの併用でシルデナフィル濃度が増加する。重症肝障害、低血圧、脳卒中や心筋梗塞を起こして間もない人、網膜色素変性症などでは禁忌である。

【用量と費用】
 メーカーの推奨治療開始用量は50mg(25mg〜100mgで用量調節)。高齢者や腎障害、肝障害の患者は25mgで開始。性交1時間前に服用し、1日1回だけ。

【まとめ】
 シルデナフィルは勃起機能障害の男性の治療に有効な新しい薬剤である。
 他の治療法と比較して、簡便さ、費用の点で優れており、製品概要に規定された条件に合う男性は治療が受けられるようにし、週1回程度(臨床試験でも月3回程度)の性交に必要な用量を処方できるよう、国民医療サービス(NHS)で使用できるようにすべきである。
 副作用特に、循環器系と眼に関してモニターが必要である。勃起機能障害の診断と治療に関する専門知識は、主として内分泌、神経内科、精神科、泌尿器科等の専門領域である。専門家以外の人が経験を積むまで、シルデナフィル開始の判断や、勃起機能障害の原因探索などについては専門家が引き続き関与すべきだ。シルデナフィルの乱用防止対策と、そのためのガイドラインが必要であろう。

【参考文献】
◆TIP誌14:5,1999

◆DTB 36(11):81、1998