6月17日付けで要望書を提出しましたが、その後収集した情報では、プロトピック軟膏の成分(タクロリムス)は、短期使用しても生涯の発がんが増加すること、免疫抑制剤として小児の臓器移植に使用すると、10年以上経過すれば30〜40%ものがんができる可能性があること、軟膏として小児に使用した場合、生涯の発がんは計り知れないものであることがわかりました。
そこで、それらを、追加情報として、薬食審薬事分科会委員に送付しました。以下が送付した、追加情報の全文です。
先日(2003年6月17日付け)、「2003年6月26日に開催される予定の薬事・食品衛生審議会、薬事部会において、プロトピック(タクロリムス水和物)0.03%軟膏(小児用)の製造・販売を承認しないこと(医薬品第一部会に検討の差し戻しをしていただきたい)」旨の要望書を送付させていただきましたが、お読みいただけましたでしょうか。
その後も、情報を収集しておりましたところ、重要な情報をいくつか発見いたしました。その中から、とくに重要な文献をいくつかお送り申し上げます。ぜひとも、これらの文献を参考にしていただき、慎重な審議をお願い申しあげます。
要望理由のまとめの項目にそって、追加情報を述べます。
先のまとめでは、免疫抑制剤として使用した場合のタクロリムス水和物(プログラフ)による悪性リンパ腫発生率は成人で数%、小児では10%にのぼることが報告されていると申し上げましたが、さらに文献を精査したところ、いくつかの新たな情報が発見されました。
たとえば、
したがって、上記の大人の追跡データと、小児と大人の違いを考慮にいれると、小児には、4〜5年で15〜20%発生し、7年以経過後から急に増加して30〜40%になる可能性があることになります。このことを、1カ月間曝露しただけで、あと曝露しなくても一生の間のがんが増えるという情報と、つなぎあわせて考えると、小児にプロトピック軟膏を短期間でも塗ると、その後、一生にわたって、発がんの危険をかかえることになるといえるでしょう。
以上から、免疫抑制剤のなかでもとくに強力な免疫抑制作用を有するタクロリムスにより、生涯の発がんの危険ははかりしれないものがあります。
たとえば、この、10)の情報は今年5月に公表されたところですが、第一部会では検討されたのでしょうか。
この問題の考え方としてとりわけ重要なのは、メーカーが有意な増加はないとする根拠になっている統計解析方法です。全部位がんの発生率を、メーカーが有意でないとした0.03%群と対照群(基剤群)を単純に比較すれば、p<0.001で有意です(全部位がんのオッズ比は2.7:95%信頼区間;1.5-4.7)。
プロトピック軟膏はがん全体を有意に増加させているのですから、層別の後解析をしてどこかの臓器のがんが増加していないか検討するための方法であるPeto mortality prevalence 解析を適用する必要性は全くありませんし、意味がありません。
この0.03%濃度で有意にがんを増加させたとするか、増加させていないとするかは、安全性の評価の根幹にかかわる決定的に重要な点ですので、十分な審議をお願いします。
つまり、血中濃度の問題にしても、この量に比較して、人での血中濃度が低いということが、理由になるからです。しかし、0.03%濃度以下でも発がんの危険があるとすれば(0.03%では発がんを認めますからそれ以下でも発がんは十分ありうる)、以下の血中濃度や感染への影響などの根拠はなくなるのです。
免疫抑制による発がん促進であっても、臨床的にはがん発生を増加させることにかわりなく、きわめて危険なことです。免疫機能が未発達の小児には、発がんリスクは特に高く出るものと憂慮されます。
この点に関して、たいへん重要と思われる動物実験がなされています(上記文献12)。まだサマリーしか入手できていませんが、サマリーをごらんください。
小児に(特に、2歳ころ)1年間も使用して、その子がEBウイルス感染者なら(多くの子が不顕性感染します)、たとえそれで中止していても、大人になって悪性リンパ腫を高率に発症する可能性もあることになります。
また、免疫抑制剤で誘発される癌は悪性リンパ腫に限りません。悪性リンパ腫と同程度の皮膚がん、がん全体として、悪性リンパ腫の約2〜3倍の癌が動物実験(がん原性試験)でも人13,14,15)でもみられます。さらにがん以外の害も多彩で、がん原性試験でみられた、心筋線維症に相当する心筋症が、短期(6カ月未満)にも、長期(6カ月以上)にもみられ、糖尿病(インスリンを分泌しないもの)や、神経障害、腎障害も生じています16)。この点も重要でしょう。
血中濃度の比較の対照になっているのが、臓器移植に対して免疫抑制剤として使用した場合の濃度や、動物の0.03%使用時の濃度であり、いずれも確実に癌を増加する濃度です。したがって、比較すべき対照である安全量の血中濃度がありません。したがって、そのような比較はそもそも意味がありません。
そのような確実に発がんさせる濃度に近い値を示す人が、軟膏塗布の臨床試験でも少なくなかったのですから、危険としか言いようがありません。しかも、検出限界以下とされる0.5ng/mLでも免疫抑制は起きます。
大部分の関連のある感染症を、勝手に「関連なし」と除外しているのですから、「本剤に起因した感染症はほとんどない」を信頼せよといっても無理ではないでしょうか。
アトピー性皮膚炎治療用の薬剤で、皮膚炎(皮膚炎症細胞浸潤、皮膚肥厚)はp値が0.001よりもはるかに低い値で有意に増加しています(オッズ比4〜6、p<<<0.001)。皮膚炎を起こさない濃度は0.03%よりもはるかに低いはずです。これで、長期化しうるアトピー性皮膚炎の治療薬になるのでしょうか。
今一度、2歳で使用を開始した場合を想定してみてください。成人するまでに発がんする危険も否定はできません。途中で中止したとしても比較的若くして、がんにかかるかもしれません。もしそのことが現実のものとなった場合には(その可能性は高いのではないかと推察されます)、薬事・食品衛生審議会、薬事分科会および各委員の方々の責任は重大と考えます。
ご賢察のほどよろしくお願い申し上げます。
以上
なお、ご連絡は、下記までおねがい申しあげます。
下記文献は、PubMedで “tacrolimus incidence AND (ptld OR cancer)”で検索するとすべて出てきます。また、下記の著者部分からPubMedサマリーへリンクできています。