7月17日、藤沢薬品は、同日日本において「プロトピック軟膏0.03%小児用」の製造承認を取得したと発表しました。プロトピック軟膏の主成分は、臓器移植の拒絶反応の抑制にも用いられ、悪性リンパ腫など癌も高頻度に発生させることが知られている免疫抑制剤“タクロリムス水和物”(「タクロリムス」と略)です。1999年から、16歳以上の成人アトピー性皮膚炎に対して承認されていたプロトピック軟膏は0.1%で、今回は、濃度を低くして、小児(2〜15歳)用として0.03%が承認されたのです。
NPOJIPは、TIP(医薬品・治療研究会)とともに、薬事・食品衛生審議会、薬事分科会各委員に対して、発がんの危険が高いので承認しないように求めていましたが、6月26日の薬事分科会において条件付きで承認の方向が確認されていたものです(速報No20〜No23)。その後も再三にわたり、NPOJIPから意見書を提出し承認しないようにもとめていましたが(速報No24〜No25)、残念ながら、今回、条件が整ったとして、正式承認となりました。
公式にどのような条件が確認されたのか、未公表のためにわかりませんが、とりあえず、藤沢薬品が公表した文書と厚生労働省(厚労省)審査管理課の説明を総合すると、以下のような条件が確認されたもようです。
安倍審査管理課長によれば、薬事分科会は、「0.03%のがん原性試験だけで結論が出せない」と考え、「企業に対して0.03%以下の濃度でのがん原性試験を指示すべき」と結論し、厚労省では企業に対して指示したとのことでした。このようなやり直しの指示をしたことは、少なくとも「0.03%軟膏が発がんに関して安全量とは言えない」と認めたことを意味します。「0.03%軟膏によるがん増加」を公式に認めたわけではありませんが、実質的には認めたことになります。プロトピック軟膏の安全性大前提が揺らいだわけですから、速報No23でも説明したように、その意義はたいへん大きいといえるでしょう。
上記の条件が守られ、処方された患者さんにきちんと、「発がんの危険性」が伝わるかどうか、たいへん心配です。どうしてかというと、「発がんの心配はない」という趣旨の文書類を配布し、それを浸透させようとしているからです。
たとえば、7月17日にインターネットで発表した文書では、「添付文書に記載された塗布量を適正に使用していただければ、---安全性(発がん性)の問題は生じない」としていて、患者向けの説明書に「発がんの危険があることを記載する」という条件には反する行為をすでにしています。
また、金沢大学(国立)医学部、竹原教授(皮膚科)が作成したとされる問答集では、「(0.1%で)がんの発生がヒトでも増えると考えられるのですか?」との質問に「そうではありません。」と答えていますが、2003年7月という日付のこの文書を、藤沢薬品は7月はじめから関係者に配布して回っているのです。
また、これまでに藤沢薬品が配布しているパンフレット類で、同じ竹原氏著の「プロトピック軟膏Q&A」(発行藤沢薬品)では「プロトピック軟膏そのものでは発がん性は認められていません。」と断定しています。高尾病院江部康二氏著の「プロトピックの上手なぬりかた」でも「プロトピック軟膏にも発ガンはありません」と断定しています。このパンフレットは定価500円ですが、藤沢薬品が医師に何冊でも無料で届けていますから、患者さんにも無料で手渡されています。
処方が、「アトピー性皮膚炎の治療に精通した医師に限定」されることになるようです。しかし、「アトピー性皮膚炎の治療に精通した医療機関」がどのようなものかについて定義はありませんし、説明もありませんでした。そもそも、アトピー性皮膚炎の治療に精通しているはずの皮膚科医も、プロトピック軟膏による影響としての悪性リンパ腫や全身の「がん」の専門医ではありませんし、その問題の重大さを認識できるとはかぎりません。
投薬記録は、医療機関と、処方された患者の双方が保存しておくのが理想的なすがたでしょう。記録の保存は、本来は医療を業として行っている医療機関が行い、必要に応じて患者がいつでもみることができるようにしておくべきです。
そもそも、記録の保存が必要とされたのは、プロトピック軟膏に発がんの心配があり、疫学調査で関連を検討するためには、投薬されたという記録が必要だからです。プロトピック軟膏でがんが発生するとすれば、プロトピック軟膏使用後十年以上も後になってからです。したがって、記録の保存も、何10年にわたって必要になるのです。
しかし、今回の承認条件では、プロトピック軟膏についても、5年を経過すれば、他の記録と同様に、医療機関側には保存の義務はありません。すべて患者の責任となるようです。
プロトピック軟膏が処方された患者さんは、記録を大切に保管し、決して失わないようにしてください。患者さんに処方記録を手渡す際に、「長期保管の意味」がどのように書かれるのでしょうか。その記載のされ方によっては、保管が徹底されない恐れが多分にあります。がんになったときに、肝腎の「記録がない」ということにならないように、気を付けなければならないでしょう。
安全性の最大の根拠である動物実験での安全量(発がんのない用量)の根拠が崩れたのですから、やり直し「がん原性試験」結果が出るまで待つべきでした。そもそも、速報No24で指摘したように、日本も参加している国際的な取り決め(ICHガイダンス)では、タクロリムスのような物質の場合は、ヒトで用いられる最高用量の血中濃度が、動物で発がんする最低用量における血中濃度の25分の1以下(体重mg/kg換算用量では150分の1以下)にするべきとされています。
逆に言うと、ヒトの最高用量の血中濃度の25倍未満では動物にがんを増やさず、25倍ではじめてがんを増やす程度なら、ヒトで発がんの危険は実際上問題にならないとして許容されることになっています。あくまでも、人の最高用量の25倍です。
ところが、プロトピック軟膏のがん原性試験で0.03%群のマウスの血中濃度は6(雄)〜8(雌)ng/mL、0.1%群の血中濃度は16(雄)〜24(雌)ng/mLでした。人最高用量(1日10g)の血中濃度は、平均2ng/mL(注1※)と推定されます。
メーカーも認めるマウスの発がん用量(濃度)が0.1%軟膏ですから、その血中濃度は、ヒト最高用量での血中濃度の8〜12倍にすぎません。メーカーも認める確実な発がん用量さえ、国際的取り決めの安全基準を満たしていないのです。まして、NPOJIPで検討して明らかな発がんのある0.03%を発がん用量とすると(実際そうすべきですが)、その血中濃度はヒト最高用量血中濃度の3〜4倍にしかすぎません。これでは、現実に使用してがんの危険があるのは当然でしょう。
「2歳で使用を開始した場合を想定してみてください。成人するまでに発がんする危険も否定はできません。途中で中止したとしても比較的若くして、がんにかかるかもしれません。もしそのことが現実のものとなった場合には(その可能性は高いのではないかと推察されます)、薬事・食品衛生審議会、薬事分科会委員の方々の責任は重大と考えます。」
正式承認によって、薬事分科会委員、第一調査会委員、医薬品医療機器審査センター厚労省、藤沢薬品は重大責任を負うことになりました。
薬事分科会が正式承認され販売されれば、その重大な責任は、歴史が証明することになろう。しかし、市販されるまでにはまだ、いくつかの通過点があります。
です。
小児用に実施された臨床試験データなども未公表です。厚労省は、プロトピック軟膏に関するすべてのデータを公表し、医薬品第一部会および、薬事分科会の全議事録を公開し、第三者の検討に供し、第三者による公正な評価を受けるべきです。NPOJIPとTIPでは、承認根拠情報が公表され次第、それらの情報をもとに、再度批判的に評価するつもりです。1人1人が監視を強め、プロトピック軟膏の危険性を認識し、広めていただきたいと願います。