昨年10月、兵庫県立尼崎病院受診中の生後5ヵ月の乳児がジゴキシン中毒で死亡しました。この事件は単なる「調剤ミス」の問題以上に、日本の医療における情報提供と害反応監視の問題点を根本的に見直すべき重大な契機となると考えました。
事件を知ってから早速、問題点を速報し(速報版No37、No38)、TIP誌にも記事を書いたところ、監査を担当した事故当事者からミスそのものを反省するとともに、今後薬剤師として、医療提供者として、いかに患者の安全を考えていくべきか勉強したいと、講演依頼がありました。
その講演を、さる3月27日、兵庫県職員労働組合主催で開催された学習会『薬のチェックは命のチェック』でいたしました。その時のスライドを公開します。
病院の事故調査委員会の報告書によれば、死亡数時間前の患者のジゴキシン血中濃度は16.1ng/mLでした。ジゴキシンは通常、2ng/mLを超えれば中毒症状がでますから、その濃度の8倍という、とてつもない高濃度に達していたということです。
誤って調剤された10倍量のジゴキシンを1日分服用すると、それだけで、8ng/mLとなったと計算で推定できます。1日分で8ng/mLになることを考慮すれば、10倍量のジゴキシンを飲めば1日以内に嘔吐し始めると考えられますから、飲み始めた日は、最初に嘔吐した日(10月11日)の前日であろうと推測します。
したがって、もし家族に「嘔吐したら必ず知らせるよう」との説明があらかじめなされていたら、1日服用しただけで気付き、中止し、確実に救命できていたと考えます。
以上のような点を中心に患者への情報提供の大切さ、処方後の害反応監視の大切さについて講演しました。