12月25日、平成19年度第5回安全対策調査会が開催され、基礎作業班(基礎WG)、臨床作業班(臨床WG)ならびに疫学調査の結果が発表された。基礎WG、臨床WGからは「現時点で因果関係を示唆するような結果は得られていない」との見解が発表され、現行の10代への投与制限は継続することが妥当とした。
呼吸抑制による突然死を完全無視
異常行動ばかりが議論され、相変わらず、突然死がほとんど無視された。当センターのまとめでは、51例の突然死、厚労省まとめでも39例の突然死を認めているのだが(報告医師もメーカーも「関連あり」と明瞭に記している報告もある)。また、タミフル服用後の突然死は、呼吸が止まることによる心肺停止であるのに、基礎WGも臨床WGも心臓死のみに関心を集中させ、肝腎の呼吸抑制については無視したままだ。
多数が死亡しても、分母も分子も報告せず、関連なし
毒性試験では、これまでに、用量-反応関係(投与量が増えるほど死亡率など増加する)や、脳中濃度-反応関係(脳中濃度が増えるほど死亡率など増加する)が明瞭であった。最近発表された毒性試験でも、死亡や症状との関連を検討し死亡が生じたが「関連がなかった」とされた。しかし、「関連なし」との結論を出すために必須の死亡率や有症状率が示されていない。何匹に使って何匹死んだかという、分母も分子も分からない状態の報告のまま、死亡との因果関係はないとしたのである。
これでは今後、どんなに関連の強い結果が出ても因果関係を認めることはありえないではないか(詳しくはTIP2007年12月号:速報No98)。
データを修正した結果(脳中濃度64倍)を示さず、関連なし
1500〜3200倍の脳中濃度は計算間違いであったとのメーカーからの情報を受け、基礎WG独自に検討したそうだが、何倍になったかは示されなかった。当センターでの独自の計算では、成熟ラットに比べて、赤ちゃんラットの脳中濃度(最高濃度)は64倍であった。その結果、死亡率や症状との関連がより強くなったのだが、そのことには何も触れられなかった(詳しくはTIP2007年12月号:速報No98)。
臨床試験は、異常の出るはずのない不要な検査のみ
臨床WGでは、タミフル服用後の脳波や24時間心電図を見ている。しかし試験の対象はインフルエンザにかかっていない健康人である。異常がでないことははじめから分かっている。検査するなら、インフルエンザ罹患時にタミフルを使用した人の酸素飽和度をモニターすべきである(しかし、いまやその実験は非倫理的である)。
質の非常に低い2つの疫学調査で関連が低められる
疫学調査の一つは、すでに報告されている重症異常行動に関する調査(岡部班調査:その問題点はTIP2007年12月号:速報No98参照)である。岡部班の研究については、廣田良夫氏が適切な指摘をしていた。すなわち、「たとえば、異常行動を起こした子の90%が歯磨きをしていたとしても、歯磨きが異常行動を起こすとはだれも思わない」。要は、対照群(この場合は、異常行動を起こさなかった子)について調べられていないため、比較にならず、関連があるともないともいえないのである。
1万人以上(18歳未満)を対象とし、2億円近くの予算を使った大規模疫学調査(主任研究者:廣田良夫大阪市立大学大学院教授)(以下「廣田班」調査)は、すでに横田班による調査計画に則って調査が始まっていたものを、途中で受け継いだものである。インフルエンザ発症者の14.7%(1,478人/10,038人)に異常行動の発現が認められ、このうち重度異常行動の割合は3.2%(47人/1459人)であったが、タミフルとの因果関係についての分析は途中経過であり、結論を得るために必要な解析ができるまでに至っていないとした。
厚労省の誤誘導でメディアが「因果関係否定」ととれる報道
調査会の席上では、責任者の廣田氏自身が、「現時点の結果では何も言えない。これで因果関係が否定されたと言うようにくれぐれも誤解されないように」と言うほど、頼りにならないデータでしかない。ところが、NHKをはじめ多くのメディアが「タミフルを飲んだ人の方が、飲まない人よりも異常行動のリスクが大幅に低かった」といった内容を報道してしまった。
これは、厚労省が、25日の調査会の数日前にマスメディアに対して、廣田班の中間結果を「タミフル使用者の頻度が非使用に較べて有意に低い」と発表したからである。データが一人歩きをしてしまった形になったのである。しかも、メディア関係者の話では、厚労省担当者が「早く解熱するから少なくなる」と、低くなる理由まで挙げていたという。
廣田氏自身が「現時点では何も言えないデータだ」「一人歩きしないように注意してほしい」といい、広津参考人からは、「こういう調査結果について言う場合、結論的なことは言えない。と決まり文句のように言われるが、今回の場合には、決まり文句というようなものではなくて、実際問題として何もいえない結果であるということだ」と、その点がたいへん強調されたが、厚生労働省とメディアに無視された形となった。
廣田班調査の最大の問題点は、「医師の報告手控え」であろう
後ろ向き調査(岡部班)もそうだ。対照群のない、したがって関連を示すことのできない調査をもとに関連がないといっている。
タミフル以外の感冒用薬剤でせん妄・異常行動
調査会では、タミフルを服用しなくても、インフルエンザだけで異常行動が起きるということが盛んに強調されていた。しかしながら、インフルエンザやかぜになると、日本では、タミフル以外にも、けいれんやせん妄・異常行動を起しうる薬剤がたくさん処方される。特に、非ステロイド抗炎症剤も含めて解熱剤、抗ヒスタミン剤、咳止め、気管支拡張剤(テオフィリン、エフェドリン、β作動剤など)、抗生物質、去痰剤、制吐剤、成人ではH2ブロッカーなどである。ステロイド剤がインフルエンザで処方されることすらある。こうした他の薬剤が異常行動を起しうることを十分に心得ておく必要がある。インフルエンザだけでも、せん妄・異常行動は起きるが、それをタミフル以外の多種多様な薬剤が押し上げているということに注目が必要である。インフルエンザだけで起きる以上に他の薬剤がせん妄・異常行動を起こしているという点に注目するなら、インフルエンザに対する注意、抗ウイルス剤についての注意だけでなく、他の感冒用薬剤もできるだけ使うべきでない、ということを認識していただきたい。
賞味期限の張替えや、産地偽装など、分かってしまえば単純だ。鉄骨抜きの強度不足設計、手抜き設計でも、鉄筋の強度の基準に合致しているかどうか、その気になれば、素人でも見抜くことは可能である。一方、基礎研究や臨床研究、疫学調査には、賞味期限や強度基準のような、「明確な基準」というわけにいかない。基準となる考えは一応あるのだが、複雑で一般には分かりにくいと思われている。
しかしながら、メーカーの情報、厚労省作業班(WG)および疫学調査結果は、ごくあたりまえの常識を働かせてもらえば、おかしいところだらけである。こうした厚労省発表、メーカー発表には、ごまかされることのないように、ぜひともお願いしたい。
なお、タミフルの害の全貌について記したTIP記事(2007年11月号、12月号)を、速報No97とNo98に掲載したので、あわせてご覧ください。