(2011.10.07号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No149

人の命にかかわる重要な情報は、無料で全て公開されなければならない

すべての臨床試験のすべてのデータへのアクセスが必要

コクラン共同計画が声明

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)代表 浜 六郎

英国オックスフォードに本拠をおき、あらゆる医療技術の効果と害に関する信頼できる評価を世界中の研究者が参加して進めている非営利活動組織「コクラン共同計画」が、2011年10月5日、「全臨床試験の全データへの無料アクセスを求める」「選別報告(報告隠し)を中止することで患者への害を減らすことができる」との内容を骨子とする声明を発表した。

声明でコクラン共同計画は、試験結果の選別報告(報告隠し)が頻繁に発生しており、医療技術の利益を誇張し、害を過小評価していることを指摘。その結果、多くの患者が無意識のうちに、ほとんどあるいは全く効果のない治療を受け、不必要な害にあっているとしている。

声明では、次の事項を求めている

  1. すべてのランダム化臨床試験は、その開始時に登録されていること、すなわち、臨床試験への最初の参加者(試験対象者)を採用する前に登録されていること(詳細はコクラン声明文参照)。
  2. 全ランダム化臨床試験の以下に記載する全データへのアクセス:試験参加者全員の個人識別を不能とした全データ、臨床試験の試験プロトコルを無料で簡単にアクセス可能にするために、電子フォーマットの形で無料提供すること。
  3. 試験の無作為化期間の終了から12か月以内に、すべての試験のこれらデータを提供することが必要であるという法律の導入を政府は検討すること。
  4. 政府は、以下の施策に対する不服従に対しては懲罰的な手段を考慮する:主要データ(core data)は無期限に利用可能な状態に保持するか、中央あるいはアクセス可能な別部門に蓄積する。また、試験データの所有権は、主催者(スポンサー)、研究者、ならびに臨床試験参加者(試験対象者)で共有すべきものであるということを認識すること。

他に、コクラン共同計画の声明文原文その翻訳
    コクラン共同計画の論説原文その翻訳
    プレスリリース原文その翻訳も参照してください。

選別報告(データ隠し)は臨床試験参加者への契約違反であり非倫理的であるとして、全面的無料開示を求めるこのコクラン共同計画の声明は、非常に重要な意義を有している。

  1. 開示が進むことで、常態化しているデータ隠しの実態がますます明らかになり、
  2. 本当の効果と害の実態が分析できるようになり、
  3. 人々の健康と安全を向上させることに著しく貢献する

ことにつながるからである。

日本でも情報開示が進むことが期待される

間質性肺炎などで多数の死者を出した抗がん剤イレッサのデータ開示を国は拒否した。それを取り消すための訴訟(NPOJIPのほか、薬害オンブズパースン会議代表などによる)も敗訴した。しかし、同時に進行していた国および製薬企業(アストラゼネカ社)に対する民事裁判の進行に伴い開示が実現したデータから、多数のデータ隠しが判明し、毒性の全容が判明してきた(速報No145)。

異常行動による事故死や呼吸停止により多数の死亡者を出したインフルエンザ用の抗ウイルス剤タミフルの臨床試験と動物実験結果についても開示を求めたが、メーカーは開示を拒否した。コクラン共同計画のノイラミニダーゼ阻害剤検討グループの一員として、筆者は2010年8月3日に情報公開法に基づき国に開示を求めたが9月2日に拒否の通知が届いた。現在その取り消し訴訟を行っている(近日中に報告予定)。

人命が企業の利益を上回ることを明確に打ち出し、全データの無料開示の必要性を訴えた今回のコクラン共同計画の声明は、この日本における不開示取り消し訴訟にとっても、強力な追い風となる。

これまで、NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)が指摘してきた製薬企業と国の規制当局による様々なデータ隠しが、世界的にも認識されてきたものであり、この動きは、今後一層強力に推し進められることになろう。


市民患者が「ほんまもん」の情報を持つことが真の改革につながる
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