2012年10月29日、英国の新聞「タイムズ」[1]が「製薬企業はクリーンにならねば」(Drug companies must come clean)と題する「臨床試験データの公開を求める」研究者らの声明を掲載しました。
また、英国医師会雑誌(BMJ)が同日、臨床試験情報の公開を求めるキャンペーンを開始しました[2-4]。
BMJ誌はまず編集長の論説で、「現在市場にある全薬剤の臨床試験データを-独立した吟味を可能にしなければならない」“Clinical trial data for all drugs in current use-Must be made available for independent scrutiny”と言っています。
発端は、抗インフルエンザ剤タミフルの検証です。2009年から、英国のコクラン共同研究のタミフル検討グループによって、その効果と害の吟味の見直しが始まりました。ところが、ここに大きな障壁がありました。吟味しようにも、肝腎なデータがあまりにも未公開なのです[5-7](速報版No.139、149、154)。
タイムズ紙の「編集長への手紙」[1]は、BMJやLancetといった世界的に名のある医学雑誌の編集長や、英国コクラン共同計画のメンバー、オクスフォード大やヨーク大等々の医師・教授ら28人による共同声明です。その趣旨は次のようなものです。
編集長どの
現在、臨床試験のうち半分は学術雑誌で出版されたことがありません。問題はそれだけではなく、英国はタミフルの備蓄に5億ポンド(約640億円)を割いたが、ロシュは、コクラン共同研究への情報提供を拒み続けています。
情報の公開により知識への自由なアクセスが拡大している今日において、現在の製薬企業のこのような秘密主義は許されるものではありません。
政府は、臨床試験データが公開されない場合は、公衆に害を与えることになるのだということを認め、改善のための一歩を踏み出さねばなりません。
現在用いられているすべての薬剤の、全臨床試験の患者ケアに関わるすべての情報を、医薬専門家が利用できるようにならなければなりません。それが実現するまで、患者は不必要な害を被ることになります。
英国では、声明を発表した人たちとの会見に保健大臣が同意したとのことです。
BMJの記事は、3年にわたるコクラン共同研究のタミフルグループの請求にもかかわらず、ロシュ社は第3相臨床試験のデータの60%を公開していない。タミフルによって何億ポンドもの利益を享受したロシュ社が、なぜ、患者と医師に、全臨床試験データへのアクセスをさせないのか、データ公開キャンペーンをする[2]というものです。
英国では、国が主導してコクランのグループにタミフルの益と害を検証させています。備蓄のために費やした保健医療費がむだな出費でしかなかったのではないか?をきちんと調べているのです。
翻って、日本政府や所轄官庁である厚生労働省はどうでしょう? 今年もまたインフルエンザシーズンが近づいてきていますが、タミフルの備蓄に費やした英国よりも膨大な出費の検証などそっちのけです。
薬剤の臨床試験の重要なデータの公開に関して、日本の状況は、イレッサ裁判において、情報公開法を使っての請求は退けられました。世論の後押しでアストラゼネカ社が応じましたが、すべてのデータではありません[8](速報版No.74)。
同様に、タミフルのデータも、「企業の秘密を損なう」との理由で請求は却下されました。現在、浜六郎(医薬ビジランスセンター:薬のチェック代表)が原告となって、タミフルの情報非開示の取り消しを求める裁判が進行しています。
国は、企業秘密を守ることよりも、患者が被るかもしれない害を防ぐことや、医療費の無駄遣いを吟味、検証することを重視するのが、本来の仕事なのではないでしょうか?
前後しますが、2012年10月17日に行われた、タミフルの情報非開示の取り消しを求める訴訟における、原告本人尋問での発言について、速報No161でお知らせする予定です。