アストラゼネカ株式会社人事総務本部 総務部長名で、2003年2月28日付け「イレッサ(ゲフィチニブ)の販売中止に関する要望書」及び「イレッサ(ゲフィチニブ)に関する公開質間書」に対する回答(本文、要望書に対する回答:別紙1、および公開質問書に対する回答:別紙2)が2003年3月31日にあった。
すでにイレッサ情報No11で概略を報告したが、アストラゼネカ社からなされた回答は、「動物実験」、「第Ⅰ相、第Ⅱ相臨床試験」、「第Ⅲ相臨床試験(Intact-1、Intact-2)及び「イレッサ使用患者数、販売量データ」については「いずれの情報も開示いたしかねます」と、全面的に開示を拒否する内容であった。
イレッサ情報No12では、その回答全文(本文、要望書に対する回答:別紙1、および公開質問書に対する回答:別紙2)を掲載するとともに、患者市民の治療と安全にとって極めて重大な情報の開示を要請しているにもかかわらず、理由にならない理由で全面拒否した不誠実な回答に対して詳細な批判を加える(回答書の電子媒体による全文をアストラゼネカ社に要請していたが、4月3日正午現在未入手であるので、NPO法人医薬ビジランスセンターにおいて複製を作成して掲載する)。
(1)「ベネフィットは副作用リスクより大きく医療現場で存在意義が認められる」の根拠として、アストラゼネカ社が組織した「専門家委員会」(2003年2月6日付け中間報告)で述べた日本医科大学工藤氏の「200人に使った場合50人に効き、1人が副作用の肺障害などで亡くなる可能性がある」(2003年2月7日付け朝日新聞朝刊)ことをあげ、「他に治療の選択肢が少ない手術不能又は再発非小細胞肺癌の患者様に新たな治療の機会を与える」としている。
この「200人に使った場合50人に効く」とは一時的な縮小効果であり、寿命延長効果はむしろ否定されているから真に効いたとは言えないことはすでに、要望理由などで、詳細にふれたとおりである。「200人に1人が副作用の肺障害などで亡くなる可能性がある」についても、1月31日現在のデータからは、200人に約3人が死亡すると推定されるし、臨床試験データでは、200人中12人が死亡する可能性がある。これらの点についてもすでに、NPOJIPホームページに詳細に論じてきた。このとおり、アストラゼネカ社の主張には何ら根拠がない。
(2)「現存する他の肺癌治療より優れている点がある」の根拠として、「手術不能又は再発非小細胞肺癌に対する効能・効果」、「骨髄抑制や腎毒性など他の化学療法剤にみられる重篤な副作用がほとんどみられない」という点をあげている。
他の化学療法剤との併用で重篤な骨髄抑制が認められたことを、アストラゼネカ社自身報告しており、さらに、 血尿と蛋白尿を同時に認めた例が臨床試験でも多数認められている。
それ以上に、肺傷害や、消化管障害の害の大きさは、他の化学療法剤をはるかに上回るものである。
これらの点に関しても、これまで、NPOJIPホームページ上で詳細に報じてきた(『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版、イレッサ情報No1〜No11)。
(3)「承認時までの安全性に関する情報はすべて審査当局に開示している」との理由については、「動物実験結果を審査当局へ提出しなかった」「研究者による同結果の発表を妨害した」「副作用の重篤/重症度ランクを低く報告した」「安全性に関する重要な情報を秘匿した」との三者の指摘は事実に反している(詳細はアストラゼネカ社ホ−ムペ−ジに掲載)、と反論をするにとどまっている。
アストラゼネカ社ホ−ムペ−ジには、永井教授の研究データを厚労省に提出しなかった理由について、「ブレオマイシン肺線維症研究の報告には、イレッサのみの対照群がなく、実験系の信頼性が十分ではないと判断した」こと、「使用用量が臨床使用と比較してかなり高用量(約50倍)だった」ことをあげている。
「動物実験結果を審査当局へ提出しなかった」のは事実であることが、アストラゼネカ社の回答からも判明した。これが問題になるデータかどうかは、審査当局や第三者が判断することであり、永井教授が重要と考え、アストラゼネカ社に情報を提供した以上、審査当局に報告するのが当然であった。
しかも、永井教授の動物実験は、ブレオマイシンを使用後にイレッサ単独使用群とイレッサ非使用群とで比較したものであり、他の抗癌剤使用後にイレッサを使用して肺傷害が生じたという「ヒトへの使用」と同じ状況で「動物に再現するか」を確認するための実験として、極めて優れた実験計画で実施された。
したがって、ブレオマイシンを使用しない「イレッサ単独対照群」を設ける必要は全くない。
用量についても、マウス200mg/kgはマウスで抗腫瘍効果を認める用量であり、ヒトでの臨床用量に相当する。
これらのことはすでに当ホームページでも解説したとおりである(イレッサ情報No7)
「研究者による同結果の発表を妨害した」点については、「研究者の手続き不備」を理由にあげている。
最終的に許可した発表時期は結局、承認後となっている。承認審査に重大な影響が出ないように操作したのではと疑われてもしかたがないのではないか。
「副作用の重篤/重症度ランクを低く報告した」点に関して、「CTCグレードは、副作用を含む有害事象の重症度をあらわすもので、---副作用報告に用いられる重篤度とは異なる尺度です。」という、理由にならない理由を述べている。
外国の臨床試験と比較してあまりにも低い日本の重症有害事象と副作用頻度、現実に重症度分類に重大な疑問のある記載が臨床試験報告書には多数ある。
公開質問書には、これらの疑問例を具体的に指摘したうえで、第三者が客観的に評価できるように詳細な情報の開示を求めたのである(イレッサ情報No10:「公開質問書」の理由参照)
本当にその報告が虚偽でないことを主張するためには、詳細な症例報告を開示すべきである。すべての情報開示を拒否しておいて、「これらは事実に反している」と言っても信用されるはずがない。
「反復毒性試験:ラット、イヌ、それぞれの、予備試験、1ヵ月、6ヵ月試験の実施日、実施施設名もふくめ、報告書原本のすべて」
というのが最大の理由であるといえよう。
肺傷害を示唆する所見があり、しかも「呼吸器系の異常所見は認められなかった」でなく,「本薬に起因する異常所見は認められなかった」と,呼吸器系に何らかの異常所見を認めた可能性を含んだ表現をしているからこそ、肺傷害を認めている可能性が高いことが伺えるのである。これを確認すること以外に公共の利益は確保できない。これを開示することは他社に情報が知られることによる不利益ではなく、第三者に知られることにより、アストラゼネカ社の不正が開示されることによる不利益が生じることを恐れているためであろう。
それを、「営業秘密」を理由に開示拒否する態度は決して許されない。
「東京女子医大(永井厚志教授)により報告されたブレオマイシンとイレッサ併用による肺障害増強に関する実験結果(日付と報告書)」について
としている。
開示拒否の理由はまったく形式的である。「情報の提供を受けた」ことは「報告を受けた」ということであろう。開示できない情報を保有しているということは、「報告書」という名前はついていなくとも、「報告書」に準じるものと言えよう。
「貴社で実施しているならば、上記東京女子医大による実験の追試結果」
同実験の追試は実施していない(なお、東京女子医大では追試されている)。
これだけ重要な実験について情報提供を受けながら、自社でまだ追試もしていないということは、イレッサの安全性(危険性)に対する認識の甘さというよりは、強く認識しているからこそ、「意図的に無視しようとした」結果ではないかと考える。
「臨床例で間質性肺炎を観察した後に貴社で実施した肺毒性に関する動物実験結果(実施しているならば)」
既報告の毒性実験結果の開示が先決である。後からの実験では意図的に毒性を低く出す試みも可能である。
(1)有害事象によるイレッサ中止例(特に(2)日本の臨床試験の中止例)は、関連が疑われたからこそ中止したものであり、定義(関連が否定できないものは副作用)からして、副作用例に相当する。ところが、これらすべてが副作用に分類されていないから、本当にそうかどうか、第三者に示すべきだと言っているのである。
第Ⅰ/Ⅱ相試験(No11試験) では、有害事象死亡例9人(13.0%)のうちイレッサを中止した死亡例が5人いた。たとえば、呼吸窮迫症候群(50歳代の女性)はイレッサを使用し呼吸窮迫症候群を生じたためイレッサを中止したが死亡した。イレッサの使用を中止したのは、関与の可能性を考えたからにほかならない。
(3) 第Ⅰ相試験(No5)の呼吸窮迫症候群と肺炎で死亡した例も、イレッサとの関連がむしろ積極的に疑われるからこそ、詳細な経過の開示を請求している。
(4)第Ⅱ相試験(No39)の有害事象の頻度計算にも含まれなかった4人(呼吸困難2人、呼吸窮迫症候群1人、肺炎1人)も、積極的にイレッサによる副作用が疑われる例ばかりであるが、副作用に分類されていない。だから、詳細な情報の開示を求めたのである。
(5) 日本の臨床試験中のメレナ(5人)、血尿(5人)、呼吸困難(1人)、低酸素症(1人)はすべて、病名からして重篤であることが疑われるが、いずれも重篤な例のなかに分類されていない。だからこそ、第三者による客観的な再検討が必要であり、情報開示をもとめたのである。
これら以外にも多数の濃厚な関連が疑われる例があるが、(1)〜(5)のとくにその可能性が濃厚である例にしぼって、情報の開示を求めたのである。
これら情報の開示は、イレッサの有効性と安全性(危険性)の再検討(公共の利益)には不可欠であり(危険性が大きいとの判断のためにアストラゼネカ社の不利益になりうる可能性はあるとしても)、他社との競合による不利益がアストラゼネカ社に及ぶという性質の情報ではない。
「第Ⅲ相臨床試験(INTACT-1、INTACT-2)における、有害事象や副作用、それぞれによる死亡の頻度を、プラシーボ群、イレッサ250mg群、500mg群に分けて集計した結果」
厚生労働省の審査当局が公表した承認前に提出された、第Ⅲ相臨床試験(INTACT-1、INTACT-2)の有害事象や副作用の頻度は、プラシーボ群、イレッサ250mg群、500mg群を合計した頻度でしかない。これでは、イレッサによる害を検討することが不可能である。
合計の頻度が出ているのに、各群の頻度が出ていないはずがない。
これら情報の開示は、イレッサの有効性と安全性(危険性)の再検討(公共の利益)には不可欠であり(危険性が大きいとの判断のためにアストラゼネカ社の不利益になりうる可能性はあるとしても)、他社との競合による不利益がアストラゼネカ社に及ぶという性質の情報ではない。
学会等で未発表のものは、学会等で公表されるまでは開示することができないのであれば、医薬品としての承認もされるべきではない。承認の根拠となるデータは、学会等学術誌への公表が1999年3月までは義務づけられていたからである。その「根拠情報公表の義務」を製薬業界の意向で厚生労働省が撤廃しておいて、臨床医との取り決めを理由とした公表拒否は許されない。
「(1)期間別イレッサ使用実患者数(推定)、(2)期間別イレッサ販売数量(推定)」
会社方針により、一切公表していない。
イレッサの使用が安全と主張するなら、アストラゼネカ社は、薬剤の市販後の安全評価に不可欠な上記情報を、積極的に開示し、その安全性を証明するべきである。それができないのは、販売数両の増加とともに、死亡も含めた重篤な副作用が増加していることが明らかになるから、それを恐れて情報開示を拒否していると解釈せざるを得ない。
以上