(2003.10.08号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No34

TIP誌2003年8-9月合併号掲載のプロトピック軟膏に関する3論文を速報版No34〜No36として転載する(TIP誌2003年6月号、7月号の正誤表はNo35末尾に掲載)。

プロトピック軟膏使用中に発見された16歳悪性リンパ腫例

島津 恒敏 *1、 浜  六郎 *2
*1 医療法人島津医院アレルギー科 *2医薬ビジランス研究所

まとめ:

プロトピック軟膏を3年余り塗り続けていた16歳女性に悪性リンパ腫(T細胞性)が発見された。すでに見てきたように、マウスにおけるタクロリムス濃度と悪性リンパ腫を含む全部位のがんリスクとの用量-反応関係、ヒトで臓器移植後の血中濃度とがんリスクとの関連がある。また発がん機序からも全部位のがん発生に関係することがほぼ解明されている。すなわち、タクロリムスにより過剰発現するサイトカインTGF-β1は、細胞の増殖を制御し、免疫抑制の発現に重な役割をもつ一方、腫瘍の悪性化および悪性腫瘍の増殖・転移を促進すること、EGFR(上皮増殖因子受容体)-FKBP-HIF系に影響して腫瘍の増殖や皮膚の肥厚に関係すると考えられる。

さらに、タクロリムスを使用していた臓器移植患者に皮膚T細胞性悪性リンパ腫が発症しタクロリムスを中止後消失したとの報告もあるように、タクロリムスは、EBVが関連したB細胞性悪性リンパ腫だけでなくT細胞性悪性リンパ腫の発症にも関係することが知られている。したがって、この患者に生じたT細胞性悪性リンパ腫はプロトピック軟膏によって誘発されたことが強く疑われる。メーカーではプロトピック軟膏使用中に認められた6例の悪性腫瘍(悪性リンパ腫3人、皮膚癌3人)を把握しながら、どの例においても、プロトピック軟膏関連を不明もしくは否定的としているが、上記の点からその関連はいずれも濃厚であるといわざるを得ない。

プロトピック軟膏0.03%小児用の2歳から15歳の最も危険な時期に広く使用した場合、発がんの危険ははかりしれないといえよう。本例を教訓に、プロトピック軟膏0.03%小児用の販売につき、今一度再考をうながすものである。

はじめに

すでに詳細に報告したように1-10)、タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)の発がんの危険性に関しては、以下のようにまとめられる。

  1. マウス塗布がん原性試験で、タクロリムス濃度と過剰がん原性発生リスクの間にロジスティック曲線に乗るきれいな用量-反応関係があった。
  2. ICHガイダンスによれば、ヒトでの最高用量血中濃度は動物での発がん濃度の25分の1でなければならないが、プロトピック軟膏では、3〜4分の1でしかない。
  3. 臓器移植にタクロリムスを使用した場合、小児では5年で15〜20%の悪性リンパ腫ができ、10年以上経過すれば30〜50%の悪性リンパ腫、それ以上のがんが発生する可能性がある。臓器移植でのタクロリムス濃度は、マウスがん原性試験での雌の0.03%群と0.1%群の血中濃度の幾何平均とが同レベルであり、人での血中濃度がマウスと同じであれば、少なくとも同じ程度以上に悪性リンパ腫や全部位がんが発生すると考えられる。
  4. このことを考慮すると、プロトピック軟膏を使用した患者から、悪性リンパ腫を中心として、相当程度にがんが発生する危険があると考えておかなければならない。

今回は、プロトピック軟膏を使用中、悪性リンパ腫が発見された16歳の女性患者を診療する機会を得たので報告し、プロトピック軟膏と発がんの危険について考察する。なお、現在、他院において経過と病態の詳細は精査中ではあるが、問題の重大性、緊急性を考慮し、現在判明している範囲内での言及に止める。

【症例】

発見時年齢16歳の女性。9歳頃よりアトピー性皮膚炎を発症し、スロイド剤の外用および内服をしていたが一進一退を繰り返し全身に広がり、3年あまり前から首から下にはステロイド軟膏、顔面を中心に、0.1%プロトピック軟膏にワセリン加えて0.075%(最近1年間は0.025%)に希釈したものを使用していた。しかし、コントロール不良のため、紹介され、島津医院に来院した。

来院時には、全身の紅皮症と、頭髪の脱毛とともに、全身リンパ節の著しい腫脹があり、末梢血に脳回転状の核のある異常リンパ球の著しい増加(69%)を認め、悪性リンパ腫が疑われたため、現在、専門病院に入院しプロトピック軟膏を中止し精査中である。CD4陽性T細胞性悪性リンパ腫であることが判明している。なお、1999年末に、A院皮膚科においてMF(mycosis fungoides)やSezary症候群など悪性疾患をも疑われ、生検を受けているが否定的であった。

【本例の病態と発症時期についての考察】

  1. 皮膚の原疾患について

    IgEが著明高値であったこと、最強に属するステロイド外用剤と内服ステロイド剤によって症状が軽快したことから、アトピー性皮膚炎であったと考えられる。

  2. 現時点での診断について

    現在、少なくとも、末梢血中の異常リンパ球が、T細胞性リンパ球(CD4陽性)であることが判明している。したがって、「T細胞性悪性リンパ腫」との診断が可能である。

    ATL抗体は陰性であるため、成人型Tリンパ球性白血病は否定され、EBウイルス(EBV)のtransformationによるB細胞性悪性リンパ腫も否定された。骨髄像は正常であり、白血病も否定された。なお、T細胞性悪性リンパ腫の皮膚における存在等に関して、現在精査中である。

  3. T細胞性悪性リンパ腫の発症時期

    発見できたのは、2003年8月12日であるが、2003年5月に不明熱にてB病院に入院時までに、すでに全身のリンパ節の著しい腫脹が認められており、また、その入院時(5月24日)に末梢血液像で核のしわ状形成や切れ込みが認められる異型リンパ球が71%認められていることから、この入院時点で、すでにPTLD(posttransplant lymphoproliferative disease)に相当する疾患を発症していた可能性が濃厚と考えられる。

【タクロリムス等免疫抑制剤によるがん(悪性腫瘍)発症の機序について】

  1. 成長過程や宿主の防御や修復システムには促進系と抑制系の制御信号の微妙なバランスが必要であり、このバランスが崩れると、発達の異常や悪性腫瘍、免疫異常や異常炎症反応を来すことになる11)。
  2. TGF(Transforming Growth Factor)はもともと、ヒトや動物の癌細胞や肉腫細胞から分離され、これらの細胞を増殖させる因子として発見されたものである12)。ネズミ肉腫ウイルス転換細胞(murine sarcoma virus-transformed cells)から分離されたSGF(sarcoma Growth Factor)もTGFの一つである12)。
  3. TGFは大きく分けてTGF-αとTGF-βの2種類あり、主な役割は、共同して標的細胞に対し接極子拘束性のない増殖をうながし(その働きがなければ成長は不可能)発がんとの関連が当初から指摘されている13)。
    TGF-αはEGF(上皮成長因子:Epidermal Growth Factor Receptor)に似てEGF受容体(EGFR)に結合し、EGF様の作用をする14,15)。
    一方、TGF-βはEGFとは構造も機能も異なり、正常細胞からも腫瘍細胞からも産生され15)、条件によって細胞増殖に対して促進的にも抑制的にも作用するが14,15)、基本的役割の一つとして、創傷治癒に大きくかかわり16,17)、胎児発育や肉芽形成(胎児発育と肉芽形成は似ている)、腫瘍増殖を促進させると考えられている16)。
  4. また、TGF-βは免疫系に対して、胸腺細胞の増殖を抑制し、Tリンパ球、Bリンパ球、NK細胞の増殖を抑制する。さらには、ヒトBリンパ球免疫グロブリン産生を著明に抑制するなど、リンパ球の分化した機能に対しても阻害する18)。また、細菌により誘導されたTNF-αや活性酸素産生、血管内皮細胞への顆粒球の接着などをTGF-βが抑制し、髄膜炎などにおける微少血管病変形成の抑制にも関与しているようである19)。したがって、TGF-βは、TNF-αなど組織傷害性サイトカインにより異物を攻撃した後、破壊された組織の修復のために動員されるサイトカインといえよう(この段階では異物の処理は終了しているはずであり、組織修復を阻害するTNF-α等異物処理に必要な反応は不要でありそれに対しては阻害的に働くのであろう)。
  5. 常に体内に発生するがん細胞を破壊している宿主の免疫的監視機構による監視からescapeすることが発がんには関係している。このescape現象には、癌細胞が変異により抗原性を失うこと、MHCクラスI分子の発現低下、免疫抑制性サイトカインの形成などが重要な役割を担っていると考えられている20)。なかでも、TGF-β(TGF-β1)は免疫抑制性サイトカインの代表格的存在であり、ヒトおよび動物の種々の悪性腫瘍で過剰発現ないしは、その過剰発現が、良性腫瘍の悪性化や悪性腫瘍の進展(増殖、浸潤、転移)にも関与している21-35)。TGFが関係する悪性腫瘍の種類として、少なくとも、大腸癌21)、骨肉腫22)、甲状腺癌23)、前立腺癌24-26)、皮膚癌27)、乳癌28)、膀胱移行上皮癌29)、胃癌30)、肺癌31,32)、結腸直腸癌33,34)、肝癌35)などが報告されている。
  6. 強力な免疫抑制剤であるタクロリムスとシクロスポリンは、種々の細胞に作用してTGF-β1を過剰発現させる36-40)。用いられた細胞の種類は、ヒトTリンパ球36,37)、ヒト肺腺癌36,37)、ヒト移植腎38)、ヒト単核球〜リンパ球39)、マウス腎癌細胞40)などである。
  7. タクロリムスは免疫不全マウスにおいてTGF-β1の発現を用量依存的に増加するとともに、腎癌の肺転移も用量依存的に増加した40)。TGF-β1が腫瘍の浸潤や転移に関係していることが知られていることを合わせて考慮すると、タクロリムスにより誘発されたTGF-β1の過剰発現が、癌進行(肺転移増加)を起こさせる機序となっている可能性がある40)とされている。
  8. HMV感染動物に1カ月間タクロリムスを使用して血液系悪性腫瘍の相対危険が6を超えた41)。
  9. 臓器移植後タクロリムスを7年間使用後、CD30(-), EBV(-)の皮膚T細胞性悪性リンパ腫が誘発されたとの報告がある(タクロリムスの中止によりこの予後不良因子を有する悪性リンパ腫は消失した)42) 。 また、アトピー性皮膚炎患者に少量のシクロスポリンを使用していて、発症したCD30(+)T細胞性リンパ腫も報告されている(EBV無関係)43)。この報告者は、たまたまかもしれないが、と断りつつ、シクロスポリンの使用によるリンパ増殖性疾患リスクが少しはあり得ることを強調している43)。心臓移植後7年目に発症した皮膚T細胞性悪性リンパ腫も報告されている44)。(末梢血中異常リンパ球の92%がCD4+であった).この例では、免疫抑制剤を中止せず、ソラレン+紫外線療法を実施し皮膚症状は軽快したが全身リンパ節腫脹をきたし、免疫抑制剤の処方変更後心筋梗塞で死亡した44)。
  10. 乾癬患者に対してシクロスポリン(経口)の連続使用と間欠使用を比較した長期ランダム化比較試験(平均観察期間56カ月)において、間欠使用者には癌は発生しなかった(0/16)が、連続使用した乾癬患者(15人)からは2人に癌が発生した(胃癌と肝癌各1人)45)。
  11. シクロスポリンとメトトレキサートで治療していたRAの患者にdiffuse large B-cell, non-Hodgkin lymphomaが生じたが、両剤を中止するだけで自然に消失した46)。一方、腫瘍期のmycosis fungoidesにシクロスポリンを5週間使用したところ皮膚から全身(肺、心筋、肝臓、膵臓、腎臓、副腎、胃)に播種し、シクロスポリン中止3週間後に死亡した例も報告されている47)。この例では、シクロスポリンが死亡の原因と考えられた。
    また、TIP誌1,2)ですでに述べたが、
  12. タクロリムス軟膏がん原性試験では悪性リンパ腫だけでなく全部位のがんが増加し、部位特異性は特別認めていない。
  13. 臓器移植後ヒトに生じた癌も、悪性リンパ腫に限らず、全身のあらゆる部位におよぶものであり、部位特異性はない。

上記より、タクロリムスやシクロスポリンなど免疫抑制剤は、単にEBVに関連したB細胞性の悪性リンパ腫だけでなく、あらゆる部位の悪性腫瘍を誘発し、さらには発生した悪性腫瘍の増殖(増大、浸潤、転移)を促進するといえる。また、その中には、皮膚T細胞性悪性リンパ腫を誘発することもあり得ることが示されている。

したがって、T細胞性の悪性リンパ腫がタクロリムスによって発症する可能性があり、発症したそのT細胞性悪性リンパ腫が、タクロリムスによって急速に進行させうることも十分考えられる。

【本症例におけるT細胞性悪性リンパ腫の発症機序について】

  1. 本症例で免疫抑制を起こしうる要因について
    1. 最強ステロイド外用剤と内服ステロイド剤によるステロイド依存症の形成

      本例の場合、アトピー性皮膚炎を発症後、副腎皮質ホルモン外用剤や内服薬の使用により、医原性にステロイド依存状態となった。血中コルチゾル濃度の著しい低下と、rapid ACTH testが無反応であったことからも、視床下部-下垂体-副腎系(HPA-axis)の強い抑制が医原性に生じていたと考えられる。このため、ステロイド剤による免疫抑制も関与していた可能性も否定はできない。

    2. 外用免疫抑制剤の使用

      ステロイド依存性状態の患者に対して、免疫抑制剤であるプロトピック軟膏/ワセリン(タクロリムス濃度0.075%〜0.025%)が使用された(患者が12歳10月から3年4カ月間)。

    3. 内服免疫抑制剤の使用

      免疫抑制剤ネオーラル(シクロスポリン50mg/dL×1〜2/日)が経口で2003年6月から8月まで併用された(承認適応外使用)。

  2. 本症例におけるT細胞性悪性リンパ腫の発症機序

    PubMedを“topical corticosteroids lymphoma”“corticosteroid-induced lymphoma”で検索したかぎり、ステロイド外用剤(ステロイド剤の全身投与もされている)が関係したリンパ腫の報告が1例48)と、アジソン病患者に長期間ステロイド剤を全身使用した患者に非ホジキンリンパ腫が発症した1例49)だけであった。コルチコステロイド剤の大量長期使用者は多いが、単独では悪性リンパ腫の発症はまれなものと考えられる。

    一方、経口のシクロスポリン剤については、使用開始されたのが、全身リンパ節腫脹や異常リンパ球の出現以降である。したがって、悪性リンパ腫の出現そのものに関与したとは言い難い。ただし、その後の腫瘍の増殖には関与した可能性はありうる。

    タクロリムス塗布の前からの皮膚病変がT細胞性悪性リンパ腫であった可能性も、極めて稀とはいえ、完全に否定しさることはできないであろう。一般に皮膚T細胞性悪性リンパ腫(cutaneous T cell lymphoma: CTCL)は高齢者に発症することが多く、小児では極めてまれである50) (全症例の0.5〜5%との報告があるという50))。しかし、小児期発症のCTCLの多くは、良性の皮膚疾患(アトピー性皮膚炎など)として治療を受けていて精査されることなく経過し、成人して病気が相当進んでから診断されることも多い50)。診断には、皮膚生検とTCR(T cell receptor)geneのrearrangementの検出が重要とされている50)。

    自然に、あるいは、少なくともステロイド剤の影響で13歳の少女にCTCLが生じていた可能性を否定することはできないかも知れない。しかし、たとえそうであったとしても、その後の急速な発症(末梢血における70%前後もの異常細胞の出現)と全身リンパ節の腫脹には、強力な免疫抑制作用と悪性腫瘍誘発作用を有するプロトピック軟膏の関与を考えざるを得ない。

【企業による癌・悪性リンパ腫の報告例】

  1. 藤沢薬品パンフレットにみる6例の悪性腫瘍

    藤沢薬品のプロトピック軟膏0.03%小児用のパンフレット(2003年7月作成)51)によれば、外国においてタクロリムス軟膏0.1%〜0.03%を使用した成人のアトピー性皮膚炎患者でリンパ腫が3例と皮膚癌3例(報告医が否定できないとしたもの)が報告されている。それによると、以下のとおりである。

    1. リンパ腫
      症例1:50歳男性。大細胞型リンパ腫    
      症例2:52歳男性、非ホジキンリンパ腫    
      症例3:54歳男性、非ホジキンリンパ腫  
    2. 皮膚癌
      症例4:56歳白人男性、内眼角部に基底細胞癌(15年間存在していたもの)
      症例5:47歳白人女性、有棘細胞癌(アトピー性皮膚炎改善後顕在化)
      症例6:75歳白人男性、右手背側部に基底細胞癌(塗布開始1カ月後に認められた)
  2. 藤沢薬品は全例で因果関係を否定するがすべて関連は否定し得ないであろう

    上記の例のプロトピック軟膏との因果関係に関して、藤沢薬品はつぎのように、すべての例で否定的に解説している。しかし、これまでにみてきたタクロリムスの性質を考慮すれば、すべて因果関係は否定し得ないであろう。

    藤沢薬品は、症例1について、病型・病期等情報不足のために因果関係の判定が困難というが、大細胞型リンパ腫は、非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫)と考えられ、いずれの型であっても悪性リンパ腫にはちがいないのであるから、関連はもちろんありうる。

    症例2に関しては、自然発生の可能性があり、塗布量や血中濃度等の情報が不明につき、因果関係の判定困難としている。しかし、血中濃度が不明を理由に因果関係の判定ができないというのは理由にならない。塗布量が不明といってもどの程度に不明なのかも記載がない。

    症例3については、自然発生の可能性があり、アトピー性皮膚炎がリンパ腫を基礎疾患とした傍腫瘍所見であった可能性が考えられるとしている。しかし、だからといって、そうでない可能性、すなわち、プロトピック軟膏による新発生の可能性を否定する根拠にはならない。

    症例4については、塗布前から15年間、病変の存在が確認されていることを考慮し「因果関係はおそらくないと考えられた」としている。しかし、15年間どのような状態で存在し続けたのか、プロトピック軟膏塗布後どのように進展したのか記載していないので、これでは否定する根拠として乏しい。15年間ほとんど変化しなかったものが増大し始めたとすれば、大いに関係があることになる。

    症例5と症例6については、約1カ月の使用での発症(発見)である。報告医が関連を否定し得ないといっている以上、メーカーとして、勝手に解釈すべきではない。報告医が判定を保留した場合でも、メーカーは関連が否定できないものとして扱うべきと、GCPでは規定されている。

    藤沢薬品自身(Fujisawa Healthcare Inc.)による報告53)では、アメリカで1年間までの臨床試験の対象になった40歳以上のアトピー性皮膚炎患者4305人(1718人年)中12人に悪性黒色腫以外の皮膚癌を認めた(10万人年あたり700人;95%信頼区間:361〜1217人)が、対照集団(Physician Health Survey:PHS;1982年に開始された42〜84歳男性2270人のコホート12年間追跡)の10万人あたり533人と比較して有意差がなかったので問題ないとしている、アメリカでは、黒色腫以外の皮膚癌は年100万人余り(10万人対約500人)であり,確かにこのデータだけでは,また個々の皮膚癌の報告だけでは皮膚癌を増加させているとは言い難い。しかし、数年にわたる長期使用例での追跡調査はまだ行われておらず、紫外線照射実験で皮膚癌の発症時期の短縮化を考慮すれば、特に小児期から塗り続けた場合の過剰発症や発症時期の早期化は危惧されて当然である。

【アメリカの臨床試験では160人に1人悪性リンパ腫】

アメリカにおけるプロトピック軟膏の臨床試験の主なものは、12週間のプラシーボ対照ランダム化比較試験3件と、約1年間のオープン試験2件(小児対象0.1%使用255人、成人対象0.1%使用316人)である。

このなかから、小児に腋窩腫瘤(おそらくリンパ節腫大)が1例と、68歳男性の耳下腺リンパ腫と、57歳男性に生じたCTCL(mycosis fungoides)が報告されている。小児の腋窩腫瘤はメーカーの報告では消失したとの評価であるが、FDAは、試験終了時点でも存在し、急に消えたことになるので信用できない、としている。

一方、CTCL (mysosis fungoides)は、FDAにより「警告不要」と評価されているが、皮膚に限局していても、連続使用後には全身性の播種を起こす可能性があり危険であろう。現に、CTCLにシクロスポリンを使用後全身に播種し死亡した例が報告されている47)。

小児の例は不明として、成人例だけで集計すると、316人中2人(約160人に1人)という高率である、小児を合わせても、573人中2人の発生率である(300人に1人、年率0.3%)。

重大な数字である。本来使用すべきでないが、もしも使用する場合でも、少なくともmycosis fungoidesの疑いのある例には決して使用しないようにという警告が必要であろう。

【なお本報告は新薬承認情報集の公表前に脱稿、校正されたものである】

【結論】

プロトピック軟膏0.03%小児用の2歳から15歳の最も危険な時期に広く使用した場合発がんの危険ははかりしれないといえよう。

本例を教訓に、プロトピック軟膏0.03%小児用の販売につき、今一度再考をうながすものである。

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