近年のう歯の減少傾向は、フッ素添加国だけでなく、非添加の国においても顕著に認められる。
方法論的に不十分な調査しかないが、現存する調査からは、フッ素添加によって、う歯の多少の減少は認められる。
欧米の場合、フッ素濃度が0.4ppmの水道水(0.7 ppm未満) にフッ素を添加して 1.0 ppm(0.7〜1.2 ppm)とした場合、6人が飲めば、う歯のない子が1人増えるとされている。
しかし、社会階層が高くなるほど、また近年になるほど、う歯の減少が認められ、フッ素添加の貢献度は著しく減少してきている。
欧米の場合、フッ素濃度が0.4ppmの水道水(0.7 ppm未満) にフッ素を添加して 1.0 ppm(0.7〜1.2 ppm)とした場合、6人が飲めば、何らかの程度の斑状歯が1本以上ある子が1人増えると推定されている。何らかの斑状歯の子の約4分の1は、美容上も問題になる程度以上の斑状歯を持つことになる。
日本においても、フッ素を水道水に添加する方法によって、欧米と同様に、う歯のない子を1人増やそうとすると、何らかの程度の斑状歯を1本でも有する子が1人以上増えると考えるべきである。また、う歯のない子を2〜3人増やそうとすると、美容上問題になる程度(明らかに異常とわかる程度)以上の斑状歯を持つ子が1人出現することになる。
水道水へのフッ素添加による骨折の増加は明瞭ではないが、フッ素を骨粗鬆症の予防的治療として使用することを目的としたプラシーボ対照ランダム化比較試験を収集したシステマティック・レビューにおいて、骨密度は確かに増加するけれども(これだけでは有益な効果とは言えない)、2年後以降の骨痛の増加、4年以降の骨折の増加、4年以降の胃腸障害の増加が認められ、総合的に判断すると、有益な作用は全く認められなかった。
フッ素は、げっ歯類動物や人の培養細胞で変異原性を認め、げっ歯類動物や人の培養細胞で染色体異常を起こすことが多数の報告で確認されている。したがって、フッ素は、ほぼ確実に変異原物質であり、クラストーゲン(染色体異常誘発物質)と考えてよい。
1)20歳未満の男性に対して、フッ素と骨肉腫の増加を示唆する、独立した疫学調 査が少なくとも2件ある、フッ素摂取と骨肉腫発生との関連を示す発癌性動物実験も少なくとも1 件ある。
2)口腔咽頭癌の発生を示すかなり信頼性の高い疫学調査が1件あり、口腔癌の発生を示唆する動物実験も少なくとも1件存在する。
3)その他、大腸直腸癌、肺気管支癌など高頻度の癌についても、その増加との関連を示す信頼できる疫学調査があり、全部位の癌の罹患とフッ素との関連を示唆する疫学調査もある。
変異原性やクラストーゲン(染色体異常誘発物質)であると推測される点も考慮し、まとめると、少なくとも20歳未満の男性の骨肉腫を増加させる可能性と、男女とも口腔咽頭癌を増加させる可能性はほぼ確実と考えておくのが、安全の立場からは適切である。
さらには他の部位、とくに大腸直腸癌や肺気管支癌、腎癌についても、増加させる可能性が高いと考えておいた方がよいと思われる。
ダウン症の発生については、一致した疫学調査結果はない。しかし、少なくとも、 関連を示唆する疫学的調査が3件ある。その関連の可能性を否定する見解がしばしば 述べられているが、否定しきるほどの質のよい調査は実施されていない。
そして、フッ素がほぼ確実な変異原物質であり、クラストーゲンであることを考慮 すれば、むしろダウン症や奇形、出生異常の可能性も考慮しておく必要があると考えられる。
慢性毒性試験4件のうち公表された2件中1件(マウス2年)で、論文の著者は記載していないが、用量依存的な早期死亡を認めおり、死亡が増加しない確実安全量は、人でも日常的に摂取しうる用量上限程度に過ぎず、死亡率への悪影響を認めている。他の1件(ラット2年)では死亡率への影響は認めていないが、この用量は人で日常的にもありうる量の2〜4倍程度に過ぎない。
疫学調査でも、増加させる可能性は否定しえない。 動物での腎障害や、発癌性、胃・十二指腸潰瘍等、死亡につながりうる病変の増加なども考慮すれば、水道水に添加する程度のフッ素濃度においても、悪影響があると考えておくほうが賢明である。
フッ素を水道水に添加することによる危険性は相当な程度と考えられ、その危険を上回る有益性はない。したがって、フッ素を水道水には添加すべきではない。
本文中に(添付文献No)として示した以下の文献を参考文献として添付する。
1) Haguenauer D et al. Fluoride for treating postmenopausal osteoporosis. Cochrane Library 2001 issue 3, Update Software Ltd.
2) NHS Centre for Review and Dissemination. "A Systematic Review of Public Water Fluoridation"
3)Department of Health and Human Services (DHHS):
Review of Fluoride "Benefits and Risk" February 1991
Report of the Ad Hoc Subcommittee on fluoride of the Committee to Coordinate Environmental Health and Related Programs Public Health Service February, 1991
4) Hoover RN. Fluoridation of Drinking Water and Subsequent Cancer Incidence and Mortality (添付文献3中のAppendix E)
5) Hoover RN. Time Trends for Bone and joint Cancers and Osteosarcomasin the Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER) Program National Cancer Institute August, 1990 ((添付文献3中のAppendix F)
6) National Toxicology Program. NTP Technical Report on the Toxicology and Carcinogenesis Studies of sodium Fluoride (CAS No. 7681-49-4) in F344/N Rats and B6C3F1 Mice (Drinking Water Studies) December 1990
7) World Health Organization: "Fluorides and Human Health" 1970
8) WHO Expert Committee on Oral Health Status and Fluoride Use
"Fluorides and Oral Health":
Report of a WHO Expert Committee on Oral Health Status and Fluoride Use, WHO Technical Report Series 846, 1994
9) Should Natic Fluoridate? : A report to the Town and the Board of Selectmen
Prepared by the Natick Fluoridation Study Committee, October 23, 1997
10) 歯科疾患の予防技術・治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究、平成12年度 研究報告書(主任研究者:高江州義 )(厚生科学研究)
11) 日本口腔衛生学会フッ化物応用研究委員会編「フッ化物応用と健康――う蝕予防効果と安全性――」 1998 年、財団法人口腔保健協会発行
12) 高橋晄正、「むし歯の予防とフッ素の安全性」1982年、薬を監視する国民運動の会
13)高橋晄正、日本フッ素研究会編著、「あぶないフッ素によるむし歯予防」,労働教育センター発行
14)Ad Hoc研究会(日本フッ素研究会内)、高橋晄正ら『解説「フッ素の効用と危険」
――米国公衆衛生局Ad Hocレポート邦訳――フッ素研究No17, p16-48、1997
なお、上記以外の参考文献と、上記論文に引用されていた参考文献のうち特に詳細に検討を加えた文献を以下に掲載する。上記の参考文献に引用されていた論文は、それぞれの論文で参照可能であるので、割愛した。
15) Arena JM ed “Poisoning―Toxicology―Symptoms--Treatment” 3rded p122-123
Charles C Thomas Publisher, Illinoi (USA), 1974
16) 角田文男、新しい超微量フッ素定量法――APF分子吸光法の意義および生体におけるフッ素の吸収と排泄に関する知見、フッ素研究No4、1983、p8-18
17) WHO Oral Health Country/Area Profile Programme, August 2001: http://www.whocollab.od.mah.se/expl/regions.html
18) Shupe JL et al. The pathology of chronic bovine fluoroshis: A review. Toxicologic Pathilogy 20(2): 274-285, 1992
19) Cohn PD. An Epidemiologic Report on Drinking Water and Fluoridation. The New Jergy Department of Environment Protection and Energy and the New Jergy Department of Health, Nov. 1992
20) Tohyama E, Relationship between Fluoride concentration in drinking water and Mortality rate from uterine cancer in Okinawa prefecture, Japan. J Epidemiol 6(4): 184-191, 1996
21) 重松逸造編、「疫学」――臨床家のための方法論――講談社、1978年、p191
22) Rapaport I, New Research on mongolism related to the disease producing role of fluorine. Bulletin Acad Nat Med (Paris) 143: 367-370, 1959
23) Rapaport I, Oligophrenie Mongolienne et caries dentaires. Revue de Stomatologie, Paris. 46(4-5): 207-218, 1963
24) Erickson JD, Mortality in selected cities with fluoridated and non-fluoridated water supplies. New Engl J Med 298: 1112-1116, 1978
25) Erickson JD, Down syndrome, water fluoridation, and maternal age. Teratology 21: 177-180, 1980