(2003.01.12)

第3回医薬ビジランスセミナーこれが日本の必須薬!
必須薬中の必須薬ゴールデンピルを表彰

 2002年10月26〜27日の2日間、第3回医薬ビジランスセミナーを大阪で開催しました。
 今回のテーマは「これが日本の必須薬!−あなたの薬 ほんとに必要?」。 さまざまな全体討論や分科会を経て、セミナー最終のイベントは、「ゴールデンピル賞の発表と表彰」でした。当日の表彰は、授賞式に出席した8社10剤だけでしたが、候補として選定した薬剤は30種類あります。また、デビルピルもジキルハイドピルも選定しました。そのあらましとリスト(表1表2表3)および、簡単な選考理由をご紹介します。詳しくは、それぞれの引用文献を参照ください。

ゴールデンピル賞計画は「必須薬」選びから実現

 病気になった時、あなたは医師を信用して安心してまかせられますか。処方は正しいか、この薬は大丈夫か、心配している人も多いのではないでしょうか。
良薬でも使い方を誤れば毒。けれども、無益有害なものは、どう使っても有益にはなりません。薬に善意や悪意はありませんが、薬を送りだす人や組織、企業や研究者には、善意はもちろんありますが、「悪意」もあります。
 安全で有効な薬剤を普及させる「企業や研究者の善意」を引き出したい。「無効、有害なものを使い方のせいにして売りつづけ薬害を起こす企業や研究者の悪意」をできれば押し込めたい。
 そのためには、どれが価値ある薬で、どれが不要/危険なものかを選ぶことが必要です。価値ある薬選びは「必須薬」選びそのものでした。第3回医薬ビジランスセミナーのテーマ「これが日本の必須薬」に合わせて、本誌7号と8号のテーマも「必須薬」としました。「ゴールデンピル」は必須薬中の必須薬、必須薬選びの象徴なのです。

ヨーロッパの必須薬

 本誌は、独立中立の医薬情報誌でつくる国際組織ISDBに加盟しています(裏表紙右下隅のマークがそれ)。そのメンバーであるドイツのArzneitelegramが発行する2500ページにも及ぶ医薬品集(2年に1回発行)では、薬剤を、緑色=良い(2段階)、赤色=悪い(2段階)、灰色=無くてもよい、の5段階に評価分類しています。この本は、今回の必須薬選びに大変役立ちました。 フランスの医薬品情報誌La revue Prescrireの「ブラボー」から「ダメ」までの7段階評価も参考にしました。

必須薬の選考経過

 選考はまず、日本で販売されている約2500成分すべてのリスト(日本医薬品集の目次を使用)を、本誌やTIP 誌の協力医師・薬剤師など約40人に送り、それぞれの専門分野の薬剤について必須薬候補とそうでないものを区別してもらいました。それを参考に、医薬ビジランス研究所で「日本の必須薬」候補の原案を作成し、再び各人にこの原案を送付し、意見を求め、「日本の必須薬候補」リストを作成しました。この時点で、候補薬剤は約400 種類。この中から特に日本の医療の現状を勘案して、必須と考える優れた薬剤をゴールデンピル賞候補として選定しました。
 ゴールデンピル賞候補30種類、デビルピル賞候補36種類、ジキルハイド賞候補7種類をノミネート。そして予め選考委員で検討し作成していた選考基準をもとに採点し、ほぼ採点ができた時点で、ゴールデンピル賞候補薬剤(表1)の製薬企業各社へ授賞式への招待状を発送しました。

ゴールデンピル賞

 授賞式に出席した8社(10薬剤、表1)に、セミナーの最後にゴールデン・ピル賞を授賞しました。出席のなかったメーカーの薬剤の中には10薬剤よりも評価の高いものがあります。

基準(1)死ぬ病気が助かる
 選考基準の第一は放置すれば短時間で死ぬような病気を救命する薬。今回の特集でいうと、アナフィラキシー・ショックに対するアドレナリンやヒドロコルチゾンです。あるいは、がんの鎮痛に欠かせないモルヒネ。長時間作用するモルヒネ「MSコンチン」を表彰しましたが、即効性があり使用に便利なのにあまりよく使用されていない塩酸モルヒネ錠も候補に選びました。もっと有効に使ってほしい薬です。
基準(2)有効性と安全性が確実
 臨床試験で価値が証明されている薬。降圧利尿剤のヒドロクロロチアジドなど。患者が多数存在し治療上の大きな進歩に貢献した薬たとえばインスリンは上位のゴールデンピルです。心筋梗塞の再発予防に確実な効果が証明されており、しかも安価で安全面でも優れている少量アスピリン、小児はもちろん成人に対しても有効で他剤よりも安全に使用できる鎮痛解熱剤アセトアミノフェン、胃潰瘍の再発予防に有効で安価なスクラルファート(アルサルミン)、パーキンソン病の治療薬レボドパ合剤(メネシット)などがあります。
基準(3)新分野を切り開いた薬剤の元祖
 ゴールデンピル賞に値する薬剤群のうち、今は改良されてより良いものがあるとしても、最初にその分野を切り拓いた薬剤にその功績があると考えました。ACE 阻害剤のカプトリルやβ遮断剤のインデラルです。これは今年のノーベル賞に、田中耕一さんが選ばれたことと同じ理由です。
基準(4)もっと使用されてよい薬剤
 あまり使用されていないが、本来もっと使用されるべき薬剤。たとえば抗潰瘍剤のスクラルファートなどを優先するようにしました。これは医師に必須薬をもっと利用してほしいからです。評点を合計して同点の場合は、データの開示度や他に代替治療法が存在するかどうかなどを考慮して優劣を決めました。

デビルピル賞

 今回は授賞の対象として発表はしませんでしたが、有効性や安全性の評価に基本的な欠陥があり、使用を中止した方がよい、医療現場から排除した方がよい薬をデビルピル賞候補として選びました(表3)。リストに上げた薬剤がなぜデビルなのか、その理由も簡単に付けています。

ジキルハイド賞

 薬としては優れていても、行き過ぎた宣伝や医師の思いこみなどから不適切に使用されていて、医療現場ではむしろ有害な影響が目につく薬剤、つまり非常によい面と使い方によっては大きな害を起こる悪い面が出るものをジキルハイド賞の候補として選びました(表2)。これも選定理由を簡単に付けています。今回の特集「ステロイド剤」はその典型です。
 デビルピルとジキルハイドピルを公表するのは、医師やメーカーにこれら薬剤の販売や使用に対する考え方を改めてもらいたいからです。第4回医薬ビジランスセミナーまでにデビルピル賞、ジキル・ハイド賞候補の薬剤は、問題点が解決されることを願っています。

必須薬の普及を

 今回選んだ「日本の必須薬」は、『薬のチェックは命のチェック』誌上およびNPOJIPホームページ上で順次紹介していく予定です。
 ジェネリック薬(後発品。新薬の特許期間が切れると他社も製造できる)メーカーには「必須薬のジェネリック品」を製造し、先発メーカーも、必須薬を優先的に宣伝してほしい。医師は必須薬を優先して処方してほしい。患者や市民の皆さんは、薬が必要なら必須薬を優先的に医師に処方してもらってほしい。医学教育や薬学教育では必須薬を優先的に教育し、学生や研修医は、必須薬を優先的に勉強してほしい。
 NPO医薬ビジランスセンターでは、それに役立つ情報づくりをこれからも続けていきます。