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1960年代、米国でインフルエンザなどにかかった子におきる一種の「脳症」が問題になった。いったん熱が下がったと思ったら、はき始め、意識がもうろうとする。報告医の名をとり、ライ症候群と呼ばれた。

子供たちが飲んでいたのが、安全とされていた解熱剤アスピリン。70年代終わりごろから、関連を示す疫学調査が出始めた。米国ではアスピリンを使わないようにしたところ、ライ症候群は激減。関与はその後も多くの調査で裏付けられた。

動物実験でも驚くべき結果が出た。イグアナに細菌を注射して感染させる。発熱したイグアナは12匹中11匹が生き残った。だが、アスピリンの仲間サリチル酸を飲んで解熱した7匹のイグアナは7匹とも死んだ。

ウサギ実験でも、細菌を感染させただけなら、はじめは高熱だが2日後にはほぼ自然に下がる。解熱剤を使うとはじめは熱は低いが、途中で使わないウサギよりも高くなり全部死んでしまった。

細菌やウィルスが体内に侵入すると体は排除しようする。この第1弾が熱だが、外敵を侵入入場所におし止める炎症反応や、免疫反応も心強い防御反応。この炎症反応をスムーズに進め、外敵を攻撃するのがサイトカインと呼ばれる体内物質だ。

だが、この物質は出すぎると人の体自体も傷つける。アスピリンの仲間の解熱剤はこれをかえって増やす。

一方、アセトアミノフェンは解熱効果はアスピリンと差はないが、炎症を抑えサイトカインを増やす作用はほとんどない。解熱剤を使うなら、アセトアミノフェンを、それも、痛みで眠れず体力が消耗する時などに限りゆるく効かせるのが安全。体温を1度下げる程度で充分だ。

19日、長く使うと腎障害などが出たとして鎮痛剤が出荷中止になった。問題とされた成分フェナセチンは体内でアセトアミノフェンに変化して効く。むしろ原因は、過去のデータからみて、一緒に入っているほかの解熱剤であると考えられるし、代替薬としてあげられたアスピリンのほうが危険なほどだ。

頭痛で鎮痛剤を手放せない人がいるが、そもそも問題の鎮痛剤はカフェインなどを含み成分的にも「依存」になりやすい。使いすぎで帰って頭痛になることも。中止すると痛みが1〜2週間で治まる人も多いのだ。が、実は安全ではなかったのである。その話は次回に。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎