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「あの人の小言には、もう免疫になってしまった」などと、普通の会話でも使う事がある。少しニュアンスは違うが、この「免疫」は感染を防ぎ、ガンの発生を防ぐうえに非常に重要な役割を持つものである。

人の体には、鼻やのど、腸の粘膜などを通じて、最近やウィルスが常に少しづつ侵入している。それが重大なことに至らないのは、体の免疫力、感染防御力が、それらの細菌やウィルスが居着いたり繁殖したりするのを防いでいるからだ。

たとえ、いったんウィルスや細菌が体内に入り込み(感染)、増えて体を攻撃(発病)しても、一定時間がたつと健康体ならだんだんと治る。次に同じ細菌などに攻撃されても、簡単に排除できるようになる。これが免疫の大切な働きである。

排除の対象となるのは、外から侵入した異物だけではない。体内にできる最大の異物、ガンもその一つ。ガン以外の病気で亡くなった人を解剖すると、小さなガンが見つかる事がよくある。多くの人は潜在的なガンを持っているのである。免疫力が不十分な生後すぐとか、お年より、抗がん剤や放射線、エイズなどで免疫力が低下した人はそれがガンになりやすい。例えば、生まれて間もない子どもは、ガン(肉腫)の一種である神経芽細胞腫を持っていることがある。だが、成長につれて消えてしまう事も珍しくない。

ウィルスが住み着いた細胞や自然にできたガン細胞を排除する主役は、必殺仕事細胞とも呼ぶべきリンパ球の一つ「キラーT細胞」という免疫細胞。これが、ガンになる異常細胞を見つけてやっつけてくれる。そのおかげで、感染症が発病・悪化したり、本格的なガンになったりしないですむのだ。実際、免疫細胞ががん細胞のまわりに集まっていると、ガンを攻撃している良い兆候と考えられている。

ところが、コレステロールが不足すると細胞の働きが悪くなる。必殺仕事細胞をはじめ、免疫や炎症にかかわる細胞がきちんと仕事をせず、細菌やウィルス、ガン化した細胞をやっつけられなくなる。

コレステロールを低くすると、感染症になりやすく、ガンにもかかりやすくなるのは、このような体の仕組みと大いに関係があると私は考えている。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎