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コレステロールは約3分の1を食べ物から取り入れ、残りは体内でできる。糖質からできたエネルギーのもとになる物質から、十段階の変化を経て合成される。

その合成過程や吸収のどこかを妨げればコレステロールを少なくできる。そう考えて、低下剤開発は心筋梗塞が多い米国を中心に約50年前から進められてきた。

ただ、その開発は失敗の歴史だった。

60年に開発された低下剤第一号は当初の評価に反して、白内障や頭全体の脱毛などが起こったり、わずか2年で発売中止。肺の動脈が突然詰まる肺梗塞が多発したり、飲まない対照群よりガン発症が倍増したりしてボツになったものもあった。

大規模臨床試験でも効果への疑問がいろいろ出た。

今日でも細々ながら使われているクロフィブラートという低下剤は、心筋梗塞になった人の再発予防や死亡率を下げる事に役立たなかった。そこで、まだ心筋梗塞になっていない男性(コレステロール値の平均約250)に使ってみたが、死亡率がかえって2割以上も跳ね上がった。これは動物実験でも、肝臓ガンが多発している。また、平均300以上の人に使っても、値自体は下がるが、死亡率を下げない低下剤もある。

現在、最も良く使われているのが、メバロチンやリポバスなどの、スタチン剤と総称される低下剤だ。合成過程の最初の段階で妨害し、コレステロールができにくくする。本当に必要とする人には大切な薬だ。コレステロール低下剤としては初めて、長期的な臨床試験で寿命を延長する可能性が、英国の臨床試験で示された。

ただ、日本では前に触れた大規模臨床試験などで、220〜280の人が死亡率が低いと出ている。心筋梗塞の危険因子がない人は、280くらいまでは薬で下げる必要はないし、すでに心筋梗塞をおこした人も、200以下には下げない方がいいと考える。

日本では現在、年3千億円が低下剤に使われている。だが、本当に必要な人は10分の1もないと私は推定している。必要がないのに使って、寿命を縮めている人がおおいのではないかと心配する。


薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎