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 歌手の村田英雄さんが、糖尿病で右足を切断したことを覚えておられるだろうか。心臓バイパス手術、脳梗塞(こうそく)、左足も切断……と厳しい闘病が続く。

 糖尿病は、不適切な治療や不摂生をしていると、後々、重い合併症がでる怖い病気だ。しかし、きちんとした食事や運動、適切な治療を続ければ、これほど成果が上がる病気も少ない。

 おさらいになるが、人の体は血液中のぶどう糖を燃やしてエネルギーを得、たんぱく質と脂肪から丈夫な骨や血管、神経、各臓器を作る。これらの栄養素が働くために不可欠なのがインシュリン。糖尿病は、これが不足する「インシュリン欠乏病」だ。インシュリンが足りないと、ぶどう糖は不完全燃焼し、血液中のぶどう糖濃度=血糖値が高くなる。このため尿量が増え、口が渇き、甘いものや水分が無性に欲しくなる。食べる量が増え、イライラしやすくなる。

 たんぱく質や脂肪がうまく利用されないので、長年かかって血管や神経がもろくなる。特に血管が集中する目や腎臓、心臓が侵されやすくなる。

 糖尿病は原因によって大まかに1型、2型の二つあるが、圧倒的に多いのが2型。遺伝的体質に過食と運動不足で太りすぎ、ストレス過剰などでインシュリンの必要量が高まって、徐々にインシュリン不足になる。日本でも、約690万人に糖尿病の疑いが強く、予備群を合わせると1370万人に上る。

 しかし、インシュリン治療をしながら活躍したプロ野球選手も、ミス・アメリカに選ばれた女性もいた。糖尿病でも、快適な生活を送ることができる。

 その秘訣(ひけつ)は、体格と運動量から割り出した適量でバランスのとれた食事、そして欠乏する分のインシュリンを補うことだ。

 食事療法でよくある間違いは「血糖値さえ正常にすればよい」と「血糖値に合わせて食事を調節しすぎる」こと。そうではなく、体格と運動量から食事量を決め、守るのが大切だ。

 それでも血糖値が高くなる人は、たいていインシュリンが不足している。その場合はインシュリンを補給する必要がある。

 血糖値を下げる目的で粗食にすることは逆効果。かえって血管や神経、免疫の働きを鈍らせ、腎臓などの合併症や、感染症になる危険も増やしかねない。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎