green35_back.gifgreen35_up.gifgreen35_next.gif


 勤務医時代、深夜トラックの運転手さんが、血糖値が600を超え入院してきた。連日の徹夜に近い運転のストレスで急に血糖値が上昇、悪循環で自前のインシュリンが出なくなっていた。1日4回のインシュリン注射を始めたら必要量が減り、1カ月後には注射なしで血糖値も落ち着いた。退院後、昼の仕事に変わり、食事療法と運動療法だけで注射は必要なくなった。

 別の患者さんは、必要性をいくら説明しても注射を嫌がり来なくなった。数年ぶりに受診した時は失明寸前。入院しインシュリンを始めたら「こんなに楽になるのなら、早く言うことを聞くんだった」と悔しがった。長年のインシュリン不足と高血糖で網膜症は進んでいたが、失明は免れ元気になられた。

 「注射はいや。飲み薬で」「打ち始めたら止められない」と思い込む人は多い。だが、インシュリンは麻薬や覚醒剤(かくせいざい)と根本的に違う。体に必須(ひっす)のホルモンが足りないから補うわけでそれ以上の意味もある。すい臓がインシュリンを出すためにもインシュリンが必要だからだ。先の運転手さんのように注射で補って好循環ができれば、自前のインシュリンが出て、注射しなくてよくなる場合もある。

 インシュリンが欠如する1型糖尿病だけでなく、不足ぎみの2型でも、毎日きちんと注射すれば合併症は減る。飲み薬は様々あるが、インシュリンの方がはるかに有用だ。ペン型注射器で持ち運びも便利になった。インシュリンが必要と医師から言われた人は始めた方がよい。

 ただし、インシュリンに限らず血糖を下げる薬は、低血糖にならないよう注意すること。血糖が下がり過ぎると、上げようと神経を興奮させるアドレナリンが働く。同時に寒気、震え、動悸(どうき)、冷や汗など典型的な低血糖の症状が出るし、血圧も上がる。これが何度も起きると血管が弱り、目や腎臓、心臓に悪い。

 見過ごされがちなのが低血糖による食欲低下。食べないと食欲がさらに落ち悪循環になる。インシュリンを少量にして徐々に食事を増やすと元気になる。

 必要量や調節方法が決まるまで自己判断は禁物だ。体格と運動量に見合う食事を基本に、不足する分のインシュリンを適切に補う。ていねいに指導してくれる医師の指示をよく守って。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎