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   インシュリンが足りないからと医師が注射を勧めたら、私はした方がよいと考えている。

 だが、煩わしさと続ける負担感から「注射なしで」と思うのが人情。それはよく分かる。医師も「なんとか」と言われれば本当はインシュリンがよいと思いつつ飲み薬を処方しがちだ。

 少しでも手軽に糖尿病の改善をという願いが、様々な飲み薬の開発を促した。だが、残念ながらインシュリンの代わりになるものはまだない。インシュリン不足の体には不足分を補うのが原則。注射が直接効くのに対し、飲み薬の働きは間接的で、未解明の点も多く、働く過程では無理(副作用)も生じる。

 飲み薬には(1)インシュリン分泌を促し血糖を下げる(2)糖質分解を遅らせる(3)インシュリン抵抗性(出ても効かない)改善(4)しびれや痛みといった神経症状に効くとするもの−−がある。

 (1)は、代表格がスルホニル尿素剤(SU剤)だ。すい臓の細胞に働いてインシュリンの分泌を促す。だが、これは疲れたすい臓にムチを打つようなものだから、長期的にはきつい。あるSU剤に関する米国の長期臨床試験では、使用しない群と比べ、心筋梗塞(こうそく)死が増加し、死亡率全体も高まる傾向がでた。

 (2)は長期の効果が未知数。

 (3)は肥満の人の高血糖防止に使われている。だが、このグループ第1号のノスカールは、肝毒性のために販売中止された。現在、アクトスが国内外で使われているが、むくみや心不全、心筋梗塞が起きる危険もあり、私は使うべきでないと考えている。昨秋、国もむくみや心不全のある人には使わないよう警告を出した。

 (4)は病気そのものを改善しないし、症状への効果も疑問だ。

 勤務医時代、私は患者さんすべてを食事・運動療法とインシュリン注射で診た。飲み薬を一時的に出したのは、注射がどうしても覚えられなかった独居高齢者と、他病院で飲み薬を処方されてきた転院者。前者はその後運動と食事療法だけとし、後者も徐々に薬の量を減らしてインシュリンに切り替えた。

 「運動+食事療法+必要に応じたインシュリン」。面倒に見えても、人生トータルに考えると、これが一番「楽」で確実な方法である。飲み薬に頼る前に、もう一度、徹底的に自分の生活の状態を見直してみよう。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎