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   数年前、離れて暮らす父と久しぶりに会った時、ちょこちょこ前のめりに歩くのに驚いた。パーキンソン病のような硬い動きだ。その2カ月ほど前にめまいがして、病院で調べたら小さい脳梗塞(こうそく)が見つかり、薬を飲んでいるという。見せてくれた薬は、脳循環代謝改善剤の一つ。中止したら1、2週間ですっかり元通りになった。87歳の今も元気に自転車に乗っている。

 脳循環代謝改善剤は、「脳卒中後遺症のしびれや、意欲の改善などに効く」として80年代に盛んに開発された。だが、最近また一つ「カラン」が使用中止になった。偽薬と比較する方法で臨床試験をやり直して、効力を証明できなかったため、メーカーが自主回収にしたものだ。

 この系統の薬は、ピーク時の98年春には34種類あったが、現在これまで通りの効能が認められているのは六つだけ。98年5月に、まず四つが中止になったのを始め、19は診療現場からすっかり消えた。父に処方された薬もだ。九つは一応残っているが、別の目的でのみ、使用されている。カランは、28番目に使われなくなった薬剤である。

 英、米、豪では34種類とも元々使っていない。現在残っている六つは、新基準に合格はしているが、本当に有用かどうか、私は疑問を持っている。

 改善剤は、一般には「抗痴ほう薬」としても期待され大いに売れた。信じてきた薬が効かないと分かった時、患者さんや家族の驚きは大変なものだろう。これらの販売額は計1兆数千億円。中には父のように副作用を起こした人もいるはずである。

 この種の「薬」で最も多いのが、脳の血管を広げるもの。だが、脳梗塞で詰まった血管の再開通は難しい。健康な血管だけ広がり、肝心の詰まった部分は血液が欠乏するおそれがある。

 次に、脳神経の興奮を適度に調整して、精神・運動面の機能をよくしようとするものがある。動物試験ではそれなりの作用はあるが、ダメージを受けた脳を、自然の回復力以上に回復させることは、実際には難しいようだ。しかも、障害を持った脳の神経は過敏ぎみで、副作用も起きやすい。

 脳卒中後は、しっかりとリハビリをして、家族や仲間とのよい関係を作る。それが早い回復につながるはずである。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎