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   喘息(ぜんそく)の季節がやってきた。

 「柿(かき)が赤くなれば医者が青くなる」といわれ、一般に秋は体にとっては良い季節だ。だが、喘息の患者さんには、1年中で最も悪化しやすいのが9〜11月である。喘息のサイクルは、3〜5月の春先に少し小さいピークがあり、6〜8月には減り、この季節ピークを迎える。

 人は呼吸をしないでは生きていけない。1、2分でも息を止めることが、どれほど困難か。喘息とは、この呼吸がひどく困難になった状態である。本来は、息がゼーゼーという病気の総称で、たとえば、心不全で呼吸困難になれば心臓喘息という。だが、特にことわりなく使う場合は気管支喘息のことだ。

 気管や気管支は、肺に新鮮な空気を運び込み、体を回ってきた血液中の炭酸ガスを肺から取り出して体外に送り出す、チューブ状の臓器である。

 鼻をつまみ口にストローをくわえ、息をしてみてほしい。太いストローなら、難なく息ができる。細くなるほど呼吸しづらくなる。極細では、本当にしんどい。喘息は、それほど、空気の通り道が細くなった状態だ。

 以前、喘息は気管支がけいれんなどで一時的に狭くなる病気だと考えられていた。だから、けいれんを鎮め、気管支を広げる薬=気管支拡張剤が治療の主体だった。

 気管支を広げる薬剤には、主に2種類ある。サルブタモールとテオフィリンだ。いずれも、世界のエッセンシャル・ドラッグ(必須(ひっす)薬)である。前者は、あの奈良の長女薬殺未遂事件でも使われたが、本来は最も安全で有効な気管支拡張剤だ。

 ところが、ここ十数年来、喘息は気管支が狭くなる一時的な病気ではなく、気管支粘膜が炎症を起こしてはれ、粘液がたまって空気の通り道が狭くなる慢性の病気と考えられるようになってきた。

 だから、治療の最終目標は、一時しのぎでなく、発作のないよい状態を続けることに変わってきた。呼吸困難が実際に起こっている時には、気管支拡張剤を使って広げる必要があるのはもちろんだが、治療の重点は、気管支のはれを引かせる方に置かれるようになっている。

 この治療の基本となるのが、ステロイド剤吸入療法である。  次回は、これらの薬剤の使い方について。


薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎