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 高血圧を放置すると、圧力で血管は徐々に硬くもろくなる。その結果、脳や心臓などの血管が詰まったり出血したりして、脳卒中や心不全、心筋梗塞などを引き起こす原因になる。

 血圧が高いほど、合併症や死亡の危険も大きい。最低血圧が110以上なら、どの年齢でも降圧剤を使った方がいい。

 しかし下げすぎも問題だ。降圧剤を使う最終目的は、様々な合併症を防ぎ、寿命を延ばすことにある。薬を使ってかえってがんや病気が増え死亡率が上がるなら値打ちがない。だから、薬の使用には慎重さが必要だ。まず気をつけることは、1回だけ血圧が高くても高血圧と即断しないこと。ストレスや運動不足、肥満、塩分の多い食事、飲酒など高血圧の原因は多い。生活をよく点検し、血圧が上がる原因を取り除く努力をして2週間〜1カ月後に、もう一度測るとよい。生活を変えれば血圧は相当下がる。それでもなお高い場合、初めて薬を考える。

 どの程度なら薬を使った方がよいといえるのか。近年、世界の高血圧治療基準が変わり、日本も昨年6月から新基準になった。それによると、生活改善の努力をしても「上140/下90」以上なら降圧剤を使うとしている。従来は「160/95」以上だったから随分低くなった。つまり、上が140〜160の人は、以前なら高血圧の素質はあるが薬は必要なかったが、新基準では薬が必要とされる。しかも、目標は「130/85」未満と、さらに低い。

 だが、私は従来基準の方が妥当と考えている。新基準の主な根拠となったデータ(欧米など26カ国の高血圧患者1万8790人を3・8年追跡したHOT研究)を検討すると、薬を使って最低血圧を80〜85程度に下げると心筋梗塞は予防できるのだが、脳卒中なども含めた死亡率全体は上がる危険性の方がむしろ大きくなる。欧米に比べて心筋梗塞が少ない日本では、悪影響はもっと強いかもしれない。こういったことから私は、「160/95」以上を治療対象とするだけでよいと考えている。

 年齢と糖尿病の有無には考慮がいる。70歳以上なら、もう少し高めでも薬は不要。一方、糖尿病で高血圧も合併している人は、80以下を目標に下げた方が死亡率が低くなる。


薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎