イタリアの指揮者シノーポリが今春、オペラ「アイーダ」の演奏中に亡くなった。54歳。心筋梗塞(こうそく)だった。あまりに劇的な死。実は、これが欧米人の心筋梗塞の典型的な姿である。
心臓は全身に血液を絶え間なく送り込むポンプ。体の動力源として働き続けるために、酸素や栄養分を十分取り込めるよう、左右3本の太い血管を持っている。それが、心臓をぐるっと取り巻く冠状動脈である。
冠状動脈に脂肪や血の塊ができて狭くなると、酸素不足になって胸が痛む。これが狭心症だ。狭心症が進んで、ついに血管が詰まってしまうのが、心筋梗塞である。冠状動脈は、先端の細いところだけでも詰まれば、強い痛みが走り心臓の働きは弱まる。まして、根元の太い血管が詰まれば、心臓はたちまち止まり、突然死しかねない。
日本では、心筋梗塞でも回復し、普通に生活できるようになる人が多い。欧米との食生活の違いから、太い血管より、どちらかというと比較的細い血管が詰まる人が多いからだ。
心筋梗塞になる危険因子は、高血圧のほか、肥満、糖尿病、喫煙、コレステロール、ストレスなど。予防には、適切な血圧コントロールと、ほかの危険因子を避けることが欠かせない。
ちなみに冬は心筋梗塞が起こりやすい。寒くなると体温を上げるために皮膚の血管が収縮するが、この時に働くアドレナリンには血圧を上げる作用があるからだ。ふだんから狭心症の症状がある人、症状はなくても冠状動脈の細い人は、心臓への負担が増え、さらに血管が細くなり、ついに詰まってしまうおそれもある。
また、せき止めや鼻水止めの薬にも、アドレナリンに似た成分(エフェドリンやフェニルプロパノールアミン)が入ったものもあり、血圧が上がるおそれがある。高血圧の人は、風邪薬ぐらいと安易に考えず、気をつけてほしい。ちなみに風邪には栄養と休息が最大の薬だ。
狭心症の症状は胸の痛みやのどの締め付け、圧迫感など。狭心症なら発作は5〜10分だが、こういった症状が、だんだん強くなってきている人はすぐ病院へ。冠状動脈の中で、まさに血の塊が成長中という可能性がある。アスピリンなどを適切に使えば、狭心症の進行防止に役立つ。危険信号を見逃さずに。
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