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 先日、新聞の死亡記事を見ていたら、「心不全」が並んでいた。新聞のデータベースで過去の記事を検索しても、心不全死はがん死より多いほどだ。心臓死を人の死とするかぎり、最後はみな心臓が弱って死ぬ。このためか、従来、死因不明の場合、心不全という診断名がよくつけられた。だが、この心不全は、本来の「心不全」ではない。95年から死因を厳密化するようになってかなり減ったが、まだまだ多用されているのかもしれない。

 本来の心不全は、ポンプとしての心臓の働きが鈍り、呼吸困難などの症状が現れ、活動が制限されたり、日常生活も困難になったりした状態をいう。

 心不全になると、血液が送り出せないだけでなく、心臓に戻るべき血液が全身にたまる。だから手足がむくむ。ひどくなると、肺に血液がたまり、肺の中までむくんでくる。呼吸した空気のあるべき場所に水がたまるため、血管に酸素を十分取り入れることができず、呼吸困難になる。息の通り道が狭くなり、ゼーゼーとなる。これは、心不全の典型的な症状で「心臓喘息(ぜんそく)」とも呼ばれる。

 心不全には、心筋梗塞(こうそく)などで急激に心臓の働きが悪くなる「急性」のものと、高血圧や弁膜症などでゆっくりと気づかない間に進む「慢性」のものとがある。

 慢性心不全は、最初はコンコンと軽い咳(せき)が出ることが多く、「かぜ」と間違われやすい。症状がだんだんひどくなり、動く時に息切れしたり、横になると息苦しく座ると楽になったりする症状のある人は、受診した方がいい。放置すれば、突然「心臓喘息」の状態になることが多いからだ。

 心不全は死亡率も高い。「ならない」ことが何よりも大事だ。高血圧や心筋症、狭心症などの心臓の病気がある人は、過度な飲酒や塩分の取りすぎに気をつけて、心不全になるのを防ぐ生活を心がけたい。

 心不全は一つの病名というより、大きな病態、症候群である。だから、原因や症状、経過も実に様々だ。急性と慢性とでも、治療や対処の方法が異なる。心電図、心エコーなどの検査を使いこなして、原因をつかみ、適切な薬剤を選択し、さじ加減をする。この話はまた次週。


薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎