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 借金がたまったら、あなたは(1)別に借金してとりあえず返し、体を使って余分に稼いで早く返す(2)これまで通りの収入で、できるだけ出費を抑えて返す、のどちらですか。

 心不全の薬は、これと多少似ています。一般には、心不全の薬といえば、心臓の収縮を強める「強心剤」のイメージがまだ強いと思うが、これは体と時間を酷使する(1)のタイプ。働き過ぎて過労死する可能性もあるために、今ははやらない。慢性でも急性でも心不全では、強心剤はせいぜいごく短期間、一時的にしか使わなくなっている。

 よく使われるのは、心臓への負担を軽くする薬。急性心不全や、慢性でも急激に症状が悪化した時は、体の中に水がたっぷりたまっている。そのために心臓は余計に負担をうけ、強く収縮できない。だから、まず体から余分な水分を追い出す。

 その主役が利尿剤だ。借金のもとになった車やぜいたく品など生活必需品以外は売って、身軽になることに似ている。特に急性期には強力な利尿剤が威力を発揮する。今にも息が止まりそうな心不全の人が、利尿剤で数時間に5リットルも尿が出て、治まった例もある。軽い慢性心不全には、塩分や水分を制限するだけでよい場合もある。

 もう一つの主役は、血管を広げて心臓の負担を減らす血管拡張剤である。ACE阻害剤は主に動脈を、ニトロと呼ばれる硝酸剤は主に静脈を広げる。

 一方、高血圧の治療にも使うβ遮断剤は、心臓の働きを弱める作用があり、心不全の治療に使ってはいけないと言われていたが、最近では、強心剤よりも長期的にははるかによいことが分かってきた。弱った心臓を休めることができるからだ。ただ、これは慎重にうまく使わないといけない。危険性も心得た専門医に使ってもらうように。

 強心剤の代名詞とも言われ、かつて心不全治療の中心だったジギタリスは、今は、心不全で速くなった脈を遅く強くする必要がある場合だけ使われる。

 ほかの強心剤でも、急性期に短期間、点滴注射で適量を使う場合は効果的なものもある。しかし、長期に内服すると、かえって不整脈などの副作用があり、外国ではそういう使われ方はしていない。強心剤はあくまで一時的な存在に。


薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎