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 正岡子規が結核性カリエスの痛み止めに、モルヒネを1日4回服用していると、高浜虚子の書簡にあった、と今週報道された。よい抗結核剤がある現在は、モルヒネが結核に使われることはほとんどないが、昔から痛み緩和の大切な薬だ。

 今、このモルヒネを一番必要としているのはがん患者だ。92年調査でも、がん患者の22%に痛みがある。外来通院中でも痛みを覚える人は少なくない。

 がんのつらさの大きな要因は痛み。放置すると、よけいひどくなる。だから、積極的に痛みを取る治療が大事なのだ。

 「モルヒネは禁断症状が……」ときらう人もまだいるが、急に中断しない限り、禁断症状はおきない。痛みがひどい時にだけ使うのでなく、痛みを感じないようにするために使い続ける。そうすれば、必要量もかえって少なくすむ。痛みが軽くなり必要量が減るのに応じて、徐々に減らすようにすれば、禁断症状はでない。

 モルヒネには吐き気や便秘、眠気などの副作用もある。だが、この多くも、吐き気止めや便秘薬を飲むことで軽減する。

 効き方は個人差が大きく、必要量はまちまちだ。人により何十倍も違う。だから医師は、病気の進行度などから「平均的に必要な量」を判断するのではなく、患者の訴えに耳を傾け、本人が感じる痛みの強さ、その効果に応じて使うべきだ。この原則を徹底すれば、90%以上のがんの痛みはほぼ完全に除くことができ、痛みを感じずに日常生活を送れる。

 もちろん体質や痛みの原因によっては効かないこともある。この場合には、ほかの系統の薬を試みたり、麻酔科、特にペインクリニックを専門とする医師の登場だ。このような痛みに対する治療=がん緩和ケアは、患者さんのQOL(生活の質)を高めるためには欠かせない。

 だが、大学病院をはじめ大病院ですら、まだまだ適切ながん緩和ケアがなされていない。早急に本気で取り組んでほしい。

 WHOの指針には、「がん患者は、痛みに対してモルヒネを含めた適切な鎮痛剤で治療される権利があり、医師にはそうする義務がある」と述べられている。末期の激痛にだけモルヒネを使うという考え方は古くなって久しい。がんで痛みを感じたら、遠慮なく主治医に話そう。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎