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 乾燥硬膜によるクロイツフェルト・ヤコブ病で、和解が成立することになった。 国とメーカーが責任を認めたのだ。

 乾燥硬膜の承認は73年である。それに先立つ60〜70年代初頭は大変な薬害が相次いでいた。 サリドマイド禍(61〜62年)、難病スモンの原因が、下痢止めキノホルムだと判明(70年)、 クロロキンによる網膜症や注射による筋短縮症。その反省から、70年代には新薬許可数は減ったようにみえた。だが、本来医薬品として扱うべき乾燥硬膜を、医療用具として簡略な手続きで通していたようで、根は深い。

 79年、薬事法が改定され、二重盲検法など形式的には治験が厳しくなり、 薬害根絶が期待された。しかし80年代以降も、問題の薬剤が次々に許可された。 薬害エイズを起こした非加熱製剤が放置され、無効な脳代謝改善剤が多数承認された。 90年代も、1カ月で15人を出した抗ウイルス剤が発売された。

 何度も言うが、薬は化学物質であり人には異物。使い方や量によっては毒になる。 人に役立つ働きはごく一部。不都合な働きの方が種類は多いくらいだ。 たとえば解熱鎮痛剤は、主な効果は解熱や鎮痛だが、副作用は潰瘍、腎障害、感染症の悪化、ショック、血液障害など様々である。 英国の調査から推計すると、解熱鎮痛剤による潰瘍だけで毎年数千人が入院し、数百人が亡くなっている。 薬全体では、米国で年10万人が副作用死しているとの調査がある。人口比で日本に当てはめると5万人。死因の5位になる。

 サリドマイド事件から40年、薬害を生む仕組みは変わらないように思われる。 副作用も含め情報が豊富な良い既存薬が、安価なためにかえって見捨てられ、危険性が未知数の新薬が過大評価され、高価格ゆえに好んで使われる。 この仕組みを変えるには、きちんと過去を点検し反省すること、それ以上に、今危険なものをどれだけ見つけ、規制を加えられるかが大切だ。 医療現場は、処方した薬剤で不都合な害が生じていないかを鋭敏に読み取り、重大な害を未然に防止する、そのための知識と努力が必要である。

 そして、現状を変える最大の力は、患者さんや市民の皆さんが、「ほんまもん」の情報を身につけることである。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎