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 電化製品でも服でも、高価なものは、性能や品質がよくなければだれも納得しない。絶対必要なら少々高くても仕方ないが、同じ性能や品質なら、値も同じであってほしいものだ。

 薬の値段は性能や品質に見合うものだろうか。時に命にもかかわるものだが、それを自分で判定できる人は少ないだろう。

 だから、きちんと性能(効果と安全性)を調べ、品質を保証する公の機関が必要となる。薬は、厳格に動物実験や人への臨床試験をし、そのデータを国が詳しく検討した結果、性能が良く、高品質のものには高い薬価がつき、価値の低いものは安くなっている(はずである)。

 だが、発売前にチェックが有効に働かず、販売開始直後に回収されるものも少なくない。

 何度か指摘したが、新薬は必ずしも有効安全でなく、評価の定まった既存薬剤の方が安心して使えることが多い。だが、日本では、世界的評価の高い薬剤が、安価なためにかえって敬遠され、評価の定まっていない新薬が、過大評価されて高い価格がつき、よく使われる。

 私は94〜95年、薬の価値と薬価の仕組みに疑問を持ち調査をした。最近は薬価がやや下がってはいるが、基本的には変わっていないので紹介したい。

 販売高で上位106品の薬剤を調べたところ同一ブランドを比較すると、日本は平均で英仏の2.5〜3倍、米独の1.3〜1.5倍だった。どの国も、10年以上たつ薬剤は比較的安価だが、日本の新薬は他国と比べてもやたらと高く、販売1年目の薬剤は、平均で英仏の約4倍にもなった。

 たとえば、少量のアスピリンは、狭心症の人には心筋梗塞(しんきんこうそく)予防に不可欠なものとして定評がある。歴史の古いこの薬は1カ月192円。一方、心筋梗塞予防に、世界的な評価はないのに2万円前後の薬も販売されている。アスピリンの実に100倍。権威ある学者が価値を認め、価格が高いと、医師も市民も患者も価値が高いと思ってしまう。

 93年調査では、総薬剤費に占める承認9年以内の新薬の比率は、ドイツは10%程度だが、日本はほぼ50%。既存薬を使った場合との差は3兆円。これは無駄遣いと言えるのではないか。

 健康保険財政が悪化している今、薬の真の価値と連動した薬価を真剣に論議すべきだ。


薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎