「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第17回 エビデンスに基づく治療指針(4)
      日常診療でよくみる慢性・安定狭心症 その1

  

1998年4月15日

 

 前回の治療指針カード(3)でも触れたが、「初回狭心症」は「切迫梗塞」として扱わねばならない。安静時や夜間にも胸痛が出現する場合や、症状が急速に増強する場合などは、冠動脈内に血栓が形成されつつあり、心筋梗塞に移行する可能性が高いので、切迫梗塞として、入院が必要である。心筋梗塞並みの厳重な管理が必要だからである。このため、専門医にすぐに紹介する。とくに、軽い初発の狭心症はしばしば、事態を軽く考え外来治療で済ますと、帰宅後に心筋梗塞を起こしたりする。外来診察時にたとえ症状が軽くとも、心筋梗塞への移行を考えて、厳重な観察を要する。入院あるいは、しかるべき専門病院への紹介が肝要である。
 カード(4)のそれぞれの介入(治療)に関するエビデンスや便益/危険についての解説は次回に詳しく述べる。

EBM指針カード・シリーズ(4)・慢性・安定狭心症

【診断・検査】
原因:慢性安定狭心症は、冠血管の病変により生じることが最も多い。しかし、他の心筋虚血を生じる原因たとえば、貧血、大動脈弁狭窄症、肥厚性心筋症、皮膚筋炎などでも生じうる。
診断:慢性の狭心症は病歴を注意深くとることだけでふつう診断が可能である。運動負荷試験は、診断にはあまり役立たない。その理由は、虚血性心疾患のリスクが低い人では偽陽性の頻度が高いし、リスクの高い患者では、主には心筋虚血の範囲の指標として有用なだけだからである。
検査:検査を実施する目的は、
1)原因の検索
2)心疾患のリスクの大きさを推定すること
3)有用と思われる検査(たとえば、Hb、安静時心電図、ボディマスインデックス、コレステロールなど) の必要性を判断することである。

【治療】
治療の目標は、
1)寿命を延長し、心血管合併症を減少すること
2)症状を軽減することである
危険因子を減らすこと
1.喫煙:喫煙の危険を強調して、禁煙を勧める。GP用アドバイスや、ニコチン代替療法、看護婦のフォローアップ、禁煙に関する文書情報など、禁煙をしたいと思っている患者に対しては有用となりうる。
2.アスピリン:少量のアスピリン(75mg/day)をずっと使用する。
3.運動:有酸素運動(エアロビック運動:水泳/ジョギングなど)を勧める。 ただし徐々に運動量を増やすこと。決して過激、過労にならぬよう。また、無酸素運動や、狭心症発作が生じるような運動は避けること。
4.他の危険因子:他の危険因子たとえば、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、肥満などがないかどうか検査して、必要があれば治療する。
症状の軽減
1.硝酸剤
2.β遮断剤
3.Ca拮抗剤
 硝酸剤、β遮断剤、Ca拮抗剤を、単独かあるいは併用で使用すれば何れも、慢性の安定狭心症の症状軽減に有効である。
註:ただし、Ca拮抗剤は高血圧症に対して高用量を長期に使用した場合、予後はかえって悪化することが最近のsystematic reviewで明らかになっている。

【専門医紹介の基準】
診断/原因検索:診断あるいは原因が不明の場合
初発の狭心症:急に狭心症が発症した患者、無痛だったが心筋梗塞の病歴ある患者に初めて狭心症症状が現れた場合、冠血管の再建術を施行した患者に新たに狭心症症状が現れた場合
症状コントロールが不能の場合:薬物療法を実施してもコントロールできない場合、安静時や夜間にも胸痛が出現する場合、症状が急速に増強する場合

作成:イギリスオックスフォード州日常的心疾患治療検討グループ
訳(註)編:TIP/JIP「EBM医薬品集プロジェクトチーム」