「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第18回 エビデンスに基づく治療指針(4)
      日常診療でよくみる慢性・安定狭心症 その2

  

1998年4月25日

 

慢性・安定型狭心症
 危険/便益に関するエビデンスの概略を示す。詳細はTIP誌1998年3月号を参照していだきたい。
一、禁煙
 禁煙して九年後には、既喫煙者の危険は非喫煙者の一生の危険とほぼ同じとなる。禁煙しようと思った人に対して、医師のアドバイス+看護婦によるフォローアップ+ニコチン代替療法により、効果が最大となる(一年間の禁煙率は、放置群1%未満VS介入群11%:NNT=10)
二、運動
 計画的なトレーニングで、運動能力の改善、運動負荷時の心拍数・血圧の変動抑制が期待できる。
三、アスピリン75-325mg/日
 慢性安定狭心症患者に対してアスピリンは重篤な血管合併症を33%(SD9%)減少。重篤な反応はまれである。
四、血圧低下
 5〜6mmhgの長期低下持続で20〜25%の冠血管、35〜40%の脳卒中合併を減少した。十七の大小規模の臨床試験の総合解析(overview)で5〜6mmhgの低下五年間持続で、冠血管合併症を16%、脳卒中合併を38%減少した。
五、硝酸剤、β遮断剤、Ca拮抗剤
 単独でも併用でも、症状を軽減する。症状の軽減効果に関しては、相互の優劣は特に認められない(高血圧に対する長期使用ではリスク増大)。
六、コレステロール低下
 血清コレステロール値が1mmol/l(38,7mg/dl)低いと虚血性心疾患罹患率が50%低いとの疫学調査がある。ただし七十歳以上の高齢者では、240mg/dl以上vs200mg/dl未満で総死亡率のオーズ比は0,99。高コレステロール血症が死亡や心筋梗塞の危険因子とは言えない。食事療法and/or薬剤治療によるコレスロール値10%程度の低下では総死亡に対する影響に関して信頼できる結論を出すことができなかった。むしろHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン類)以前のコレステロール低下剤では総死亡率に有意に差はないものの、増加の傾向が認められている。
 四十五歳から六十四歳のコレステロール値が平均272mg/dlの男性に、プラバスタチンを投与してコレステロール値を平均20%低下させて約五年追跡し、冠血管の重要なイベントが減少した。確実な非致死性心筋梗塞+冠血管死亡は、相対リスクで31%減少(絶対リスクで2,4%減少:NNT=42 P<0,001)。総死亡は相対リスクで22%減少(絶対リスクで0,9%減少NTT=110、P=0,051)であった。
 比較的若い、コレステロール値がかなり高値(平均272mg/dl)の男性につき40mg/dayと高用量を投与して冠血管の重要なイベントが減少したもの。女性についてのデータはない。
 三十五歳から七十歳の狭心症あるいは急性心筋梗塞の既往歴があり、血清コレステロール値が5,5〜8,0mmol/l(213〜309mg/dl)の人に食事療法をしてシンバスタチンを投与したところ、五年間で相対死亡率の危険を30%減少した。