「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第23回 セラトロダスト(ブロニカ)等 抗アレルギー剤の点検を

  

1998年7月25日

 

 セラトロダスト(ブロニカ、武田薬品工業)は、成人気管支喘息にのみ適応のある、いわゆる経口抗アレルギー剤である。「トロンボキサンA拮抗作用により、即時型および遅延型喘息反応並びに気道過敏性の亢進を抑制して抗喘息作用を示す」とされ、1日の薬価は約370円(80mg錠を1日1錠)であり、テオドールの1日薬価(200mg錠を1日2錠で約51円)の約7倍である。
 第U相後期臨床試験では、高用量、低用量、プラシーボとの間の比較がなされ、全般改善度による評価では、3者間に有意差があり(p<0.01)、喘息点数や発作点数でも有意の差があるとされているが脱落が多く(25%)、肺機能(FVC、FEV1.0)には有意の差はなかった。
 第V相臨床試験は、アゼラスチンとの間でなされたものである。これも、最終全般改善度では有意の差があった(p<0.01)が、途中で有意の差があったとされる評価項目でも、脱落が23〜39%あり信頼性に乏しかった。
 ブロニカは有効性の問題だけでなく、安全性にも大きな問題がある。他の薬剤同様、いわゆる「安全度」という医師の主観による個々の症例についての安全性評価を集計して評価されている。この「安全度」による評価方法の問題点の詳細は他にゆずるとして、特に問題であるのは以下の点である。
 (1)承認までの臨床試験 824例中28例(3.4%)に肝機能検査異常が認められている。
 (2)1995年12月の発売以来1997年1月末までの約1年間で、医師により重篤とされる肝機能障害例49例(ビリルビン3.0mg/dl未満23例、ビリルビン上昇例8例うち黄疸例4例)が報告された。劇症肝炎で死亡(1例)または転帰が不明の合計は12例であった。
 (3)長期臨床試験中の因果関係が否定できない死亡が103人中2人(約2%)あった。
 臨床試験中の死亡例については、1人は、56歳女性。喘息歴11年で中等度の喘息であったが、20週間で喘息が悪化し死亡(喘息死)した。種々の検討すべき点はあるものの、喘息が悪化して死亡しているのであるから、少なくとも全般改善度は「著明悪化」に、「安全度」は「安全でない」に分類すべきはずであった。ところが、全般改善度は「不変」、最終全般安全度は「問題なし」と判定されていた。
 もう1例は、44歳男性。軽症の喘息で33週間服用していて交通事故死した例である。喘息の悪化が交通事故につながることもあるため、ニュージーランドにおける喘息死と薬剤との関連性に関する調査では、交通事故死も喘息死の中に含めている。
 アスピリンなどNSAIDs(非ステロイド抗炎症剤)はプロスタグランディンの合成阻害を介して抗炎症作用を示し、大部分の喘息患者には抗炎症的に作用するが、一定の率(問診調査で2〜4%、負荷試験で10%前後)でアスピリン喘息(アスピリン解熱鎮痛剤喘息)を起こす。トロンボキサンAもアラキドン酸カスケードの一部に作用する薬剤である。NSAIDs同様、大部分の患者に対して有利に働いたとしても、一部の患者には致死的に作用する可能性は否定できない。ブロニカによる2%の死亡例がこのような例でないと言えるだろうか。否定できないというよりも可能性は十分考えておかなければならないものである。少なくとも否定できない限り関連があると考えておくべきものである。したがって、ブロニカは有効性に疑問があるだけでなく、危険性が高い。危険/益比は大きく、使用すべきでない。詳細は以下の参考文献を。

参考文献
1)林敬次、TIP「正しい治療と薬 の情報」8:111,1993
2)林敬次、浜六郎、TIP「正しい 治療と薬の情報」12:79,1997
3)厚生省医薬安全局、医薬品等安全 性情報、No147 1998年3月