アスピリンやサリチル酸系製剤だけでなく、サリチルアミドを含有する幼児用PL顆粒も一九九八年十二月二十四日の厚生省医薬安全局長通知により、以下のように「重要な基本的注意」が改定され、インフルエンザなどには「原則禁忌」の扱いとなった。
「重要な基本的注意」の項に、以下を追加する。 サリチル酸系製剤の使用実態は我が国と異なるものの、米国においてサリチル酸系製剤とライ症候群との関連性を示す疫学調査報告があるので、本剤を十五歳未満の水痘、インフルエンザの患者に投与しないことを原則とするが、やむを得ず投与する場合には、慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察すること。
〔ライ症候群:小児において極めてまれに水痘、インフルエンザ等のウイルス性疾患の先行後、激しい嘔吐、意識障害、痙攣(急性脳浮腫)と肝臓ほか諸臓器の脂肪沈着、ミトコンドリア変形、GOT、GPT、LDH、CPKの急激な上昇、高アンモニア血症、低プロトロンビン血症、低血糖等の症状が短期間に発現する高死亡率の病態である。〕
【原則禁忌とは】 「……の患者に投与しないことを原則とするが、やむを得ず投与する場合には、慎重に投与し、……」のような表現は、一般に「原則禁忌」とみなされる。
したがって、今回の改訂で、サリチルアミドの入った幼児用PL顆粒は、これまでよりも一層「禁忌」に近い表現になった。
【もともと二歳未満には適応なし】 サリチルアミドは「サリチル……」であるが、代謝されてサリチル酸にはならないため、これを主成分とする幼児用PL顆粒は一般にNSAIDsやアスピリンと比較して抗炎症作用や解熱作用はそれほど強くなく、ライ症候群の危険はむしろ少ないと考えられる。
しかし、もともと承認時に二歳未満への適応がなく、SIDS(Sudden
Infant Death Syndrome)など重大な副作用との関連もあり、幼児用PL顆粒には二歳未満の用量が明示されていない。 用量が記載されていなくとも二歳未満に使用していた医師も多いと思われるが、用量の記載がなく、代替薬剤がある場合には、実質的には「禁忌」と解釈すべきである(理由の詳細はTIP誌を)。
【幼児用PL顆粒は実質的に用途なし】 しかし今回の改訂で、幼児用PL顆粒は、全年齢でアスピリンと同様、インフルエンザや水痘時の発熱に対して「原則禁忌」になった。アスピリンはリウマチ性疾患など使用せざるを得ない場合があるが、幼児用PL顆粒は、感冒やインフルエンザ様等にしか使用しないため実質的にその用途はなくなった。
【原則禁忌の意味】 基本的には、単なる感冒や、インフルエンザなどウイルス性疾患の発熱に対しては、解熱剤は不要。大人でも安易に使用すべきでない。特に小児はライ症候群の危険があり、スルピリンやポンタール、ボルタレンなどNSAIDsではそのリスクが大きい。原則禁忌の薬剤を処方する場合は、患者への説明は必須であり極めて厳重な観察が要求される。厳密に観察していても、重症化が始まれば止めようがない場合も多いので、初めから使用しない方が賢明。実質的に禁忌というのはこのような事情による。
では、「何を使えばよいのか」という質問をよく受ける。どうしても使わざるを得ない場合は、危険が最も少ないアセトアミノフェンを少量とすべきだが、詳しくは次回に。
参考文献 (1)宮田雄祐『サリチル酸製剤"アスピリン"とライ症候群』TIP、1:31・1986
(2)『鎮痛解熱剤の選択と使用:最近の変更』TIP、2:14・1987
(3)『「かぜ」「熱」の処方を今一度点検しよう』TIP、10:66・1995
(4)浜六郎他『ライ症候群、原因不明の急性脳症とNSAIDs』TIP、12:13・1998
(5)『「解熱剤は基本的に不要」の意味について』TIP、13:109・1998
(6)『ライ症候群と解熱剤』TIP、14:1・1999 |