厚生省は最近、ライ症候群とアスピリンなどサリチル酸剤との関連につき灰色判定をし、ライ症候群の原因究明のための研究を終結し、インフルエンザ等ウイルス感染の発熱へのサリチル酸系製剤の使用を「原則禁忌」とする添付文書の改訂を行った。これは問題だ。
(1)アメリカではアスピリンの使用規制でライ症候群が激減したが、日本ではもともとアスピリンの使用は少ないし、アスピリンをほとんど使用していない今もライ症候群は減少せず年間百人以上が罹患し続けている。
(2)今回の厚生省の情報はNSAIDs(非ステロイド抗炎症剤)の危険の可能性について全く触れていない。
(3)幼児用PL顆粒などの添付文書改訂で記載された「原則禁忌」は実質的に「禁忌」と読めるが、医療の現場ではこの改訂の意味についてまだ十分把握されていないのではないか。
TIP誌では、一九八六年にライ症候群について詳細に論じ、その後も解熱剤の問題をしばしば論じてきた。最近、適応外使用に対する制限がより厳しくなりつつあり、医師や薬剤師に対して、より一層の説明義務が求められている。
このような状況の中で、今回の改訂の意味を現場では相当厳重にとらえておく必要があるし、NSAIDsの危険性に関する注意もあわせて必要であろう。
これまでの厚生省の調査を詳細に検討し、研究終結の意味、幼児用PL顆粒などの添付文書改訂の意味を考え、TIP誌一月号に掲載した。
その要点を二回に分けて紹介する。 NSAIDsとの関係が疑わしい
ライ症候群(Reye's Syndrome):一九六三年にオーストラリアのReyeらが、ウイルス感染症が軽快し始めたころから急に肝障害を伴う、脳症を起こす高死亡率の原因不明の小児の疾患として報告した症候群。
その後アメリカを中心にアスピリンがその主要な原因であることが、多くの症例対照研究で証明され、アスピリン使用制限の後減少した疾患。
ただし、日本ではきちんとした症例対照研究が実施されていないために原因が究明されていないが、アメリカでのアスピリンに相当する解熱剤は日本ではNSAIDsであり、NSAIDsとの関連が最も疑わしい。
解熱剤としてNSAIDs使用はやめるべき CDCが中心に実施した症例対照研究では、解熱剤アスピリンのライ症候群罹患の相対危険(オッズ比)は、三十三〜六十六と極めて大きく、小児のインフルエンザなどウイルス感染症の解熱にアスピリンを使用することを制限した結果、アメリカでのライ症候群の発生は激減した。
また、CDCの調査を批判したアスピリン製造メーカー五社がスポンサーになって実施した症例対照研究でも、アスピリンをウイルス感染症に使用すると、三十五倍ライ症候群の危険があるという結果が出たため、アメリカではこの論争には決着がついた。
日本では、一九八三年からライ症候群(感染後の急性脳症)と薬剤との関係についての厚生省の研究班を中心に研究がなされてきたが、今回いまだに結論を得ないまま調査研究を終結した。
しかし、これまでの厚生省の調査を詳細に見たところ、研究班では、詳細には触れていないが、公表された報告書の中にNSAIDs(非ステロイド抗炎症剤)とライ症候群による死亡との関連を示すデータがあることが判明した。
すなわち、ライ症候群による死亡児は、生存児に比して解熱剤として非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)の使用頻度が二十倍高かった(p=0,007)。これは、厳密な症例対照研究ではないがNSAIDsの危険を示す重要なデータである。このようなデータをそのままにしてはならない。
厚生省にはNSAIDsの危険性を検討できるデザインの症例対照研究を実施することを強く要請したい。別記のようなデータがあるにもかかわらずNSAIDsの危険性を検討するための症例対照研究を実施しないなら、解熱剤としてNSAIDsの使用を止めるべきである。
医療の現場では、サリチル酸系製剤はもちろん、NSAIDsも解熱剤として使用しないことを徹底すべきである。(参考文献は次回)
表 臨床的ライ症候群の死亡とNSAIDsの危険 |