「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第33回 ライ症候群と解熱剤(4)
      実践してこそ真のEBM  

  

1999年4月15日

 

 ライ症候群と解熱剤に関するTIP誌記事のサマリーを二回に分けて掲載したところ、質問が相次ぎ、前回はその質問に答えた。その後、またまた賛否の意見や質問など大きな反響があった。
 寄せられた意見から、多くの医師が解熱剤を基本的に頓用とし、できるだけ安易に使用しないようにしているとの努力が伝わってくる。しかし、「そうは言っても、解熱目的ではアセトアミノフェンは非力であり、どうすればよいのか」などの疑問が投げかけられた。同様の疑問を持つ医師も多いと思われる。二回に分けて回答をしたい。

【ご意見・ご質問に答える】
 Q1 熱で、ぐずり苦しがる子に本当に熱を下げて楽にさせたい場合、アセトアミノフェンはとても非力。20kgの子に200mgでも39〜40℃の熱が全く下がらないことが多い。
 A1 熱で苦しがる子の診療は本当に大変だ。親でなくとも早く何とかしたいと思う。しかし、インフルエンザで本当に苦しいのは、悪寒戦慄が起きてから熱がピークに達するまでの間。数時間から半日(あるいは二十四時間)程度。熱がピークに達すれば39〜40℃あっても、たいてい体は温かくなり楽になってくる。それまでの辛抱であることをよく説明することが大切。
 それに熱の出始めには、たとえボルタレンでも下がらないことが多いし、一旦下がってもすぐに悪寒戦慄がきて発熱し、その時には前にも増して苦しくなる。解熱剤で熱が下がっている間は一見楽に見えてもインフルエンザが治癒したわけではない。また後で発熱するなら、それは本当に解熱したとはいえない。
 ただし、頭痛など痛みがあれば不眠となり休養の妨げになる。そのような場合に「鎮痛目的」で使用するアセトアミノフェンまで否定はしていないことを、あらためて強調しておきたい。

 Q2 熱で苦しんでいる患者に全く効かない薬を投与するのは意味がないのでは?
 A2 解熱剤で解熱させると最終的な治癒が遅れることは、アセトアミノフェンを用いたRCT(ランダム化比較試験)で確認され、動物実験でもアスピリンやポンタールで確認されたエビデンスに基づく事実。
 日本でも、インフルエンザに対するアマンタジンの臨床試験(RCT)に際して、解熱剤使用者よりも解熱剤非使用者の方が最終的な解熱が早かったと報告されている。全体として、早く治る方が意味があるはずである。

 Q3 「アセトアミノフェン200mg一回服用で一日で解熱した」とあるが、本当にインフルエンザであったかどうか疑問。筆者は臨床医ではないのでは?
 A3 筆者の内科医歴は25年以上。今も非常勤医でインフルエンザの診療もする。
 筆者自身のインフルエンザは、流行時に身近な何人かから連続して発病したことと、典型的な症状があったからまず間違いない。
 アセトアミノフェンは解熱の目的で使用したのでない。悪寒がおさまり熱はピークを少し過ぎたところで頭痛で不眠であったため、鎮痛目的で夜中に一回だけ使用したもの。翌朝に37度台に解熱してそれ以降再発熱はなかったので、自然経過で解熱したと考える。
 解熱剤を使用せず同様の経過をとる例は多数みている。

 Q4 筆者はEBMを主張しているが、自分の体験を述べるのはEBMとは言えない。
 A4 ウイルス疾患には解熱剤を用いない方が最終的に早く治癒することが、RCT(ランダム化比較試験)や動物実験で確認され、一方、疫学調査から解熱剤がライ症候群の危険因子と推測される。現在存在するこれらの「ベストエビデンス」を紹介した後で、自分自身の体験を述べた。自分の体験だけでものを言っているのでは決してない。
 EBMで最も大切なことは、このように適切に実施された研究成果(ベストエビデンス)に基づいた医療を、現場でいかに実践するかである。エビデンスを単なる知識としてだけではなく、エビデンスに基づく適切な医療実践、つまり不要な解熱剤を実際に使用しないことこそ真のEBMである。そうすることで早く治ることを実際に患者さんが体験し、医師自身も体験すれば、さらによく納得できるようになろう。その一助にと、エビデンスの紹介とともに、私自身の罹患と自分自身に実践した体験を記したものである。(つづく)