「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第37回 インフルエンザワクチン エビデンスはあるのか(1)

  

1999年6月15日

 

 一九九九年六月九日に、厚生省の予防接種問題検討小委員会において、インフルエンザワクチンの予防接種法に基づく接種の推進等を骨子とする最終報告が検討された。
 TIP誌では、一九八七年にも取り上げたが、今回、この小委員会で意見陳述をした山本英彦氏(大阪赤十字病院小児科)の、「インフルエンザワクチン効果にエビデンスはあるか?」を掲載した(『TIP誌』Vol.No.5 1999)ので、その要約を紹介する。

義務接種中止の公式理由
 日本では、一九六二年インフルエンザワクチンが勧奨接種に組み入れられ、学校で集団接種が始まった。一九七六年予防接種法に組み入れられ、一九八七年予防接種法内のまま実質的に任意接種となった。
 そして一九九四年ついに、予防接種制度全体の見直しの中で予防接種制度の対象から外された。それが、今回また予防接種制度の中で接種が勧奨されるようになった。
 一九八七年公衆衛生審議会は、不活化インフルエンザワクチン中止理由を「社会全体の流行を抑止することをできるほどの研究データは十分に存在しない」とした。
 予防接種制度から除外される前の一九九三年には上記に加え、「流行するウィルスの型がとらえがたく、このためワクチンの構成成分の決定が困難である」として「予防接種制度の対象から除外することが適当である」とした。
 60〜70%台であったワクチン接種率は一九八七年以降低下し、一九九三年には20%以下となった。
 インフルエンザワクチン脳症の死亡、重篤な後遺症認定者は一九九三年末現在121人となり、一九九四年にはワクチン被害裁判で国は敗訴した。

学童に中止の根拠論文
「前橋データ」
 一九七九年十一月に前橋市は、ワクチン接種後の痙攣発作患者の出現を契機に学校でのインフルエンザワクチンの集団接種を中止し、流行状況を近接他地域と経年的に比較したが、超過死亡はなく、周囲の高率接種地域と比較してインフルエンザ様疾患の発症率に差がなかった。欠席率をエンドポイントとして比較しても差はなかった。
 インフルエンザワクチンが有効としたそれまでの論文は、RCT(無作為化比較試験)ではない。非接種者は普段欠席しがちな病弱な児童が多く含まれるため、非接種群の欠席率が高くなる方向にバイアスがかかる。
 前橋市では、全児童に接種しなかったので欠席しがちな児童も含めて欠席率を出しているが、それでも周辺地域と差がなかった。

抗体上昇は評価指標として不適切
 血清抗体の上昇でインフルエンザ罹患を診断した研究は多い。しかしこの方法は不適切である。ワクチンを接種するとインフルエンザ罹患前に抗体が上昇するため、発熱などインフルエンザ症状が出ても既に上昇した抗体価はそれ以上には上昇せず、インフルエンザ罹患と診断されなくなる。いわゆる接種群の抗体「頭打ち現象」のため効果が過大評価される。
 適切な効果比較には、発熱等、臨床診断が必須である。

日本のインフルエンザ研究論文
 日本にはRCT文献は存在しない。高齢者を対象とした調査でも、接種者と接種を拒否した非接種者を比較しただけである。高齢者に勧める根拠としては貧弱なデータだ。
 一九八七年以後、小児を対象とした比較研究が二論文あるが、いずれもRCTではなく、非接種者は接種希望者以外である。非RCTであることによる問題点は種々現れている(詳細は『TIP誌』本文を)。ワクチン再開の根拠とするにはいずれも不十分な論文である。
 また、基本的なワクチンの製法はこれらの調査の当時から変わってはおらず、新たに有効であるとの可能性が示唆されるデータが示されたわけでもない。
(世界のRCTの検討結果は次号につづく)