「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第36回 ノスカール(トログリタゾン)は中止を  

  

1999年5月25日

 

 TIP誌では、ノスカール(トログリタゾン)の危険性について四回にわたって論じ、本シリーズでも三回にわたりTIP誌記事を紹介したが、その後の情報を加えてTIP誌1999年4月号で、再度危険/益比の評価を行った。要旨を紹介する。

イギリスでは再申請却下
 アメリカでは一九九九年三月二十六日、FDA内分泌代謝薬専門委員会が継続を承認した。
 イギリスではグラクソ・ウエルカム社が一九九七年十二月自主的に中止し、その後九八年八月に再申請していたが、本年三月添付文書の変更でも、なお安全の保証がないとして申請は却下された。

重症肝障害は千五百人に一人死亡は一〜二万人に一人以上にも?
 アメリカではこれまでに160万人にトログリタゾンが処方され、死亡例が155人にのぼると報道されている。
 アメリカでの販売元パーク・デービス社の発表では、FDAに報告された75例中、トログリタゾンと何らか関連のある例は35例に過ぎず、六から八カ月まで毎月肝機能検査を義務づけることによって死亡率が、3.6万人に1人から5.7万人に1人に減少したから安全である、としている。
 しかし、メーカーは長期臨床試験での死亡例(約 600人中1人死亡したため試験は中止となった)では、トログリタゾンとの因果関係を否定している。
 従って、関連なしとした死亡例の関連性の根拠は薄弱といえる。
 160万人の処方で死亡は180人以上(死亡率1万人に1人以上)とも推定されている。また、黄疸を伴うほどの重症肝障害は、1200から1800人に1人。
 従って、販売会社の発表データどおりに利益が危険を上回るとはいえない。

検査義務は守られず、守っても死亡を防げない
 アメリカでは、一九九七年十二月以降,6カ月間で7回(その後1年間に11回)の肝機能検査が義務付けられた。しかし、教育病院でも検査の義務化前後で比較しても、検査回数はほとんど増えていない。6カ月間で7回の規定のはずが平均2回だけ。詳細に調査した20例中、規定どおり完全に検査していた例はゼロであった。
 しかも検査実施状況は、死亡例も生存例でも差はなく、規定どおり検査していても75%は発見できないだろうと推定されている。

「毎月検査義務」規定そのものが問題
 訴訟社会といわれるアメリカの教育病院でさえ平均2回という少なさや、「完全検査例ゼロ」は,「義務規定」そのものの問題点を示している。
 トログリタゾンの使用対象例は、もともと肝機能検査は半年に1から2回もすればよく、1年間以上も毎月実施してまで薬を使用するほどの病気ではない。

「死亡報告」減少は「死亡」減少でなく「報告」減少では?
 アメリカでは1カ月1回の検査を義務づけ後、死亡報告は37%減少したという。しかし、使用全例の登録が実施されていない以上、死亡報告が減少したといっても、死亡が減少したとはいえない。死亡した例できちんと検査をしていなかったら訴訟では不利になるため、報告されなくなっただけの可能性が強い。
 このほか、心機能への影響も深刻。心不全の危険がある(詳細はTIP誌原文を)。

早急に中止を
 トログリタゾンの現時点での利点は血糖値を降下させるだけで長期予後は不明。死亡の危険は大きく危険の情報は増大する一方だ。イギリスでは再申請が却下された。ノスカールは中止しなければならない。厚生省・企業に中止を強く要請する。
 *その後の状況は,第53回参照.
参考文献】
1)TIP誌vol,13:13,1998
2)同 :35,1998
3)同 :51,1998
4)同  :77,1998
5)同 :40,1999