「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第38回 インフルエンザワクチン エビデンスはあるのか(2)  

  

1999年6月25日

 

山本英彦論文(TIP誌1999年5月号)後半を紹介する。

世界のRCT文献等でも効果の証明は限定的
 インフルエンザワクチンの見直しの根拠になっている、アメリカを中心とした国外論文をレビューし、RCT9件、コホート研究 40件等、62文献を最終検討文献とした。
 RCT9件のうち臨床診断で有意の差があった3論文を詳細に検討した。
 Govaert論文の主エンドポイントは抗体診断。臨床診断では家庭医の臨床診断で有意の差(p=0.049)があったが、国際的に適切な診断基準では有意の差はなかった(p=0.12)。しかも、死亡者数は接種群6人、非接種群3人と、接種群の方が多かったが、論文ではこの点を適切に評価していない。
 Nichol論文は、臨床症状を主エンドポイントとした。プラシーボ群の69%に比し、ワクチン群は上気道炎罹患が61%と有意に少なかった。上気道炎罹患69%は高すぎる。通常、インフルエンザの罹患率は人口の数%まで、30%を超えることはまずない。対照群のインフルエンザの罹患率が20〜30%程度の場合を想定すれば、有意の差はなくなる。
 William論文はプラシーボ群との間に有意の差を認めたが、B型インフルエンザのワクチンを含まない製剤で、B型インフルエンザに対して有意の効果を認めるというように、無作為化が崩れているとしか言いようのない論文であった。

高齢者死亡に対する効果
 高齢者の死亡に対するワクチンの効果を評価した論文は20論文であったが、これらはすべてRCTではなく、ワクチン拒否者を対照群としたものがほとんど。
 最近では,高齢者施設入所者への接種率が90%前後に向上してもインフルエンザ流行を抑制できないし、死亡も減らないとする論文が目立つようになってきた。Drinka論文では入所者に高率(85%、86%)にワクチン接種をし、九三-九四年は死亡がなかったが、九二-九三年のシーズンは6例(ワクチン群5例)が死亡した。
 高齢者死亡についてのコホート研究ではいずれもワクチンの効果を見いだせなかった。DavidはNursinng homeでの院内感染に対する不活化ワクチンを中心とした対策は見直すべきであると結論している。
 最近のデータベースに基づく多数例での死亡数の比較研究が2編あるが、総死亡がインフルエンザワクチンの恩恵を受けているとは思われない。前橋データで示されたような方法で、地域でのインフルエンザ流行阻止や超過死亡に対する影響を判定する有力な手段となり得ることから、今後の成果に注目したい。
 厚生省がインフルエンザワクチンの有効性の根拠としているこれら外国論文の根拠も脆弱である。解析に耐え得る日本独自の調査研究は前橋市の研究以降実施されていない。
 インフルエンザによる死亡に介入できる危険因子には、ワクチン以外に、高齢者施設の1人当たりの面積がある。ヨーロッパと日本の施設の差は明らか。どちらに介入するのが死亡を減らすのに貢献するのか、本人や家族にとってより価値があるか検討すべきだ。

ワクチンの違いおよび副作用
 日本とアメリカの製品とは異なる。国産ワクチンを高齢者に勧めるには、国産ワクチンでRCTが必要だ。一九七二年以降も、インフルエンザワクチン脳症は散発している。低年齢層にワクチンを勧めるのは世界でも初めての経験だ。科学的根拠を欠いたまま実施することは、大きな悲劇を生む可能性が大である。
 さらに最近は、義務接種時に比べて抗原量の多いワクチンを使用している。
 小児のライ症候群などインフルエンザ後の急性脳症防止を目的としたワクチン接種の根拠となるデータは全くない。TIP誌でも再三取り上げているように、まず非ステロイド抗炎症剤系解熱剤との関連を調査すべきだ。

結論
 義務接種中止後も再開の根拠となる国内データは示されていない。国外文献でもインフルエンザワクチンが有効という結果は、臨床診断を指標にしたRCT文献でも極めて限定的。日本でのワクチン再開についての根拠となるものではない(なお、一九九九年六月九日の小委員会の情報では、これまでワクチン推進論者であった人からもワクチンの効果に関する根拠を問題にする発言が出て、結論は持ち越しになったという)。