「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第54回 NSAIDs解熱剤の使用中止は同意見
      NSAIDsによるサイトカイン誘導と脳症の関係に注目を  

  

2000年4月25日

 

四月五日号の投稿に答えて
 苦痛を訴える患者を前にして、その苦痛が軽くなるように治療することが、医師にとって重要な仕事ですから、同様のご意見の医師は多いのではないかと思われます。しかし、意見の違いもさることながら、むしろ、投稿者のご意見と私が主張してきていることと、極めて重要な部分で一致している点こそ強調したいと思います。
 つまり、投稿の小児科医の主張される「ボルタレン、インダシンの類は解熱剤にあらず、このような薬剤は抗リウマチ薬と考えております。ですから、絶対に使用しておりません」という点は、まさしく、私がTIP誌やこの「いま医薬品を見直そう」の連載で何度も何度も繰り返し主張していることなのです。
 三月十五日号の「いま医薬品を見直そう」のタイトルは「NSAIDsの解熱剤としての使用は中止すべき」です。ボルタレン、インダシン、ポンタールなど「非ステロイド抗炎症剤、つまりNSAIDsを解熱剤として使用しないようにしよう」ということなのです。インフルエンザワクチンの「現状なら害あって益はない」についても考えは一致しております。

厚生省の研究結果でも指摘
 厚生省の研究班である森島研究班から出された研究結果も、ボルタレンやポンタールなど「非ステロイド抗炎症剤」の危険を指摘したものでした。
 アセトアミノフェンは非ステロイド抗炎症剤も含めて解熱剤を使用しなかった人と比較して全く変わりなく、危険とはいえなかったのです。
 ライ症候群の際にも、アスピリン(サリチル酸)の危険は指摘されましたが、アセトアミノフェンの危険は指摘されておりません。他の状況証拠から、アセトアミノフェンも危険はゼロというわけではないようですが、非ステロイド抗炎症剤の一つであるアスピリンなどと比較すれば、危険は30分の1とか50分の1ということなのです。

脳症とサイトカインとの強い関連
 なぜアセトアミノフェンは解熱剤として使用しても脳症の悪化やライ症候群にはほとんど関係せず、アスピリンやポンタールなどの非ステロイド抗炎症剤だけが関係するのか。
 このことは、極めて複雑な機序があるようですが、最も確実と思われる機序は腫瘍壊死因子(TNF−α)などサイトカインの誘導増強力の差のようです。アセトアミノフェンはほとんど誘導を増強せず、アスピリンやポンタールなど非ステロイド抗炎症剤だけが、抗炎症作用の強さに応じて誘導増強するのです。
 そして脳症とサイトカインとの強い関連が見事に証明されているのです。

 脳炎や脳症にならない単なる熱性けいれんだけの子には髄液中のサイトカインが上昇していた子は全くおらず、脳炎脳症になった子はほとんど全員で三種類のサトカインのいずれかが上昇していたとの貴重な報告があります。日本からの報告です。このあたりについては、TIP誌2000年3月号に詳しく載せました。
 したがって、解熱のための代替薬剤として、NSAIDsよりもはるかに安全なアセトアミノフェンがあるのですから、とりあえず、危険な非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)を解熱剤として使用するのはやめようではないか。「使うとしても、アセトアミノフェンを最小限で使用するようにすべき」と言っているのです。
 投稿の方のその他の意見には、いくつか問題があります。(1)インフルエンザ脳炎・脳症を単に高熱による疾患ととらえ、高熱は危険なので「解熱が必要」を強調しておられる点と、(2)スルピリンを安全な薬剤と認識しておられることです。
 この点について次回に述べたいと思います。