「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第55回 感染症で発熱は有益
      反論には具体的な根拠を

  

2000年5月15日

 

 前回、四月二十五日号本欄で投稿の方の議論について(1)インフルエンザ脳炎・脳症を単に高熱による疾患ととらえ、高熱は危険なので「解熱が必要」を強調しておられる点と、(2)スルピリンを安全な薬と認識している点が問題であると述べました。

高熱は感染症の重篤の現れ
-NSAIDs解熱剤でさらに高熱に-
 投稿の方は、その根拠らしいこととして「インフルエンザ脳炎・脳症は、高熱が長時間続けているため脳浮腫を起こしてしまう(から)と考えている」「41〜42度の入浴を6〜7時間させた状態を考えて頂ければ、当然脳が腫れ上がり、浮腫状態になっても不思議はないと思います」などを述べています。しかし、これらの内容は、確実な証拠が含まれておりません。そのように確実な証拠を根拠としないままに論を展開しておられる点が問題だと思います。
 「インフルエンザ脳症は高熱ほど死亡率が高いことは周知の事実」については、この「いま医薬品を見直そう」シリーズに対し、これまでにも同様の反論がありました。すでに何回もお答えして繰り返しにはなりますが、もう一度記しておきます。
 高熱が続いて全身状態が悪化するのは「発熱が続くから」ではなく、「高熱を生じることに現れている感染症の重篤さ」を反映したものです。そして、アスピリン、ボルタレンやポンタールなど非ステロイド抗炎症剤によるサイトカイン誘導でさらに重篤さを増すのです。最終的に脳炎・脳症になった時期には高熱になっているとしても、NSAIDsを使用するまでの体温は差がないのです。たとえばライ症候群の患者と対照群の患者で解熱剤使用前の体温に差はありませんでした。
 「高熱が脳に及ぼす影響は明らか」とされていますが、この点についても、明らかではありませんし、調査してきた範囲内では、そのような事実を示す論文はありませんでした。むしろ発熱の利点を支持する根拠が多数あります。
 「脳症の予防には高熱を抑えることが重要」とのことですが、解熱剤で脳症が予防できたというランダム化比較試験の結果は残念ながらありません。むしろ、ウイルス感染や細菌感染をさせた動物実験で、サリチル酸やポンタールを使用して解熱した方が死亡率が高かったというデータはいくつもあります。最も安全と思われるアセトアミノフェンの人でのランダム化比較試験で、水痘の治癒が遅れたとの報告もあります。
 もしも、解熱剤で脳症が予防できたというランダム化比較試験あるいは動物実験でも、それを示唆するようなものがあるなら、お教え頂きたいと思います。

スルピリンもNSAIDsで危険
 スルピリンの問題点については、ちょうど一年前の本誌四月二十五日号(第34回)に記載しました。スルピリンはアミノピリン(4−ジメチルアミノ−アンチピリン)のスルホン酸ナトリウム塩です。胃(内服時)および肝臓(注射時)で加水分解されて、活性代謝物の4メチルアミノピリンになり、作用を発揮します。アミノピリン同様、無顆粒球症の危険が大きく、欧米では用いられていません。世界的に見ても、スルピリンを解熱剤として使用している国は日本とごく少数の国だけです。
 また、アスピリン喘息確認の負荷試験に使用されるなど、非ステロイド抗炎症剤としての性質はアスピリンと同様です。脳炎・脳症に対する影響もボルタレンやポンタールなどと同様の危険があると考えておくべきです。これについても、安全性を示す根拠データがありましたら、お示し下さい。