トログリタゾンのアメリカでの販売会社パークデービス・ワーナーランバートが FDAの勧告に同意して、この三月二十一日、トログリタゾン(アメリカでの販売名Rezuline)の自主回収を決定した。これを受けて、三共株式会社は三月二十二日ノスカールの自主回収を決定し、各医療機関に通知した。
自主回収することを決定したこと自体は歓迎する。 しかし、一九九七年十二月に重篤な肝障害が報告されてから、詳細に検討した結果、そのリスクは益を上回ることが十分に予測され、相次いで危険を示す情報が報告されてきたため、TIP誌(文献1-5)やこのシリーズ(6)でも再三再四取り上げ、早急に中止すべきと訴えてきた。
私たちの主張通り、もっと早く中止すべきであったし、回収決定は遅きに失したといえよう。
理由にならないメーカーの理由 ワーナーランバート社は中止の理由を以下のように述べている。
「今でもわれわれはRezulin(注:アメリカでの商品名)の利益は危険を上回ると信じている。しかし、マスコミがセンセーショナルに危険性を書き立てるので、Rezulin使用に伴う安全性と有効性に関して医師・患者間で適切なインフォームド・コンセント(well-informed decision)ができない状況になってしまった。このような状況を考慮してFDAとも協議の結果、販売を中止することにした」
このコメントは、言語道断であるとしても、FDAの中止の理由はどうであろうか。
FDAの中止理由は「他より危険」 FDAは、二種類の同系統の薬剤(Avandia=ロシグリタゾンとActos=ピオグリタゾン)を一九九九年四月に承認以来、Rezulinも含めて三剤の詳細なモニタリングを実施してきた。その結果、Rezulinは他の二剤に比較して、肝臓への毒性がより強く、AvandiaとActosはRezulinよりも危険は少なく利益は同程度であることが示された。
その結果、「Rezulinは、重篤な肝障害が同系統(グリタゾン系)の他の薬剤に比較して多く、他のグリタゾン系薬剤で代替できる」として、FDA はメーカーに対して中止勧告をしたものである。
毒性はグリタゾン剤共通機序 トログリタゾンによる肝障害の発生機序として、リンパ球刺激試験(DLST)陽性でアレルギーであることが推定される場合があるが、アレルギーが推定できない場合もある。
肝細胞のアポトーシス、膵β細胞のアポトーシス、酸素消費量の増大、治療濃度程度で生じる可能性があることから考えれば、重篤な肝障害は、トログリタゾンの薬理作用そのものに密接に関係している可能性が強い。
アクトスも同様に危険の可能性大 日本で新たに承認されたグリタゾン系薬剤のピオグリタゾン(商品名アクトス)も、基本的な薬理作用は全くトログリタゾンと同じである。また、臨床試験における貧血、LDH異常、CPK異常、肝機能障害(GOT、GPT異常)、浮腫等の頻度、動物実験での血漿量増加の結果による心肥大などについても、同様である。
膵β細胞や心筋・骨格筋のATP感受性K+(KATP)チャンネル活性をトログリタゾンが用量依存的に抑制することなどを総合すれば、細胞のアポトーシスは肝臓や膵β細胞だけに限らないのではないかと考えられる。
現在までのところ、FDAの調査では、トログリタゾンに比較してピオグリタゾンは重篤な肝障害の頻度が低かったとされている。しかし、これまでにTIP誌で再三再四取り上げてきた上記の諸点を考慮すれば、ピオグリタゾンについても安全性が保証されているとは決して言えないであろう。〔詳細はTIP誌2000年4月号参照〕
参考文献 1)TIP誌P13:13-17、1998 2)同 13:35-38、1998
3)同13:51、1998 4)同13:77、1998
5)同14:40-42、1999 6)『全国保険医新聞』2068号、2071号、2078号、2111号 |