「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

      

 

第57回 世界のエッセンシャルドラッグで見直しを  

  

2000年6月25日

 

エッセッシャルドラッグ=必須医薬品とは
 2000年4月、WHOのエッセンシャルドラッグ・リストを別府宏圀氏とともに翻訳し、三省堂から、『世界のエッセンシャルドラッグ』という題名で出版した。
 「エッセンシャルドラッグ=必須薬」は、世界の国々が自国の医療に不可欠な医薬品を選ぶ際に、WHOがたたき台となるものとして示したもの。言い換えれば、このリストに挙げられた薬剤は、いずれも「病気の予防や診断・治療に不可欠で、なければ人の健康維持や医療に重大な支障を来すような、質の高い優れた薬剤」といえる。

日本でもエッセンシャルドラッグの考えは重要
 エッセンシャルドラッグのコンセプトは、もともと開発途上国向けに一九七六年にWHOが打ち出したもの。限りある医療資源と資金(国民医療費)で国民の健康を守るには、最小の出費で最大の効果を上げるため優先的に使用すべき「基本医薬品」をよく吟味して決めておく必要があったからだ。
 薬価国際比較で証明したように、「高価な新薬=よい薬」ではない。薬剤に関する限り、世界的な評価を得たものはたいてい十年以上経っている。だから、エッセンシャルドラッグは決して開発途上国向けだけではなく、日本も含めて世界の医療に本当に必要不可欠な医薬品を考えるうえで重要だ。第八回報告(一九九七年)では、工業先進国でもこのリストが重要であることを指摘している。

厳選されることの利点・・知識と情報の信頼性
 日本には現在、商品名で17,000種類、成分数で約2,000種余りが販売され、毎年30〜50種類の全く新しい成分が承認されている。たくさんの新薬を使いこなすための知識を身につけるのは至難の技だ。
 このリストに載っている薬剤は約300種類。薬理学的にも基本となる薬剤ばかりだ。以前からよく研究され、良質であることが確かめられ、医師が使用する際に身につけておくべき知識や情報が副作用も含めて豊富である。まず厳選された必須薬から徹底的に身につけておくべきだ。患者さんにも説明がしやすく、副作用や害が生じた時にも早く気づきやすく、適切な対処がとりやすい。
 数が少ないので流通管理上も利点があり、学生や研修医、再教育にも基本となる。日本のローカルドラッグは世界に通用しないが、このリストの薬剤は世界中が優先的に採用し、世界共通の一般名で書かれているので世界的に通用する。

厳選された必須薬で医療の品質向上を
 エッセンシャルドラッグリストに掲載されていないが必須と考えるべき薬は多少ある。しかし、たいていはこのリストの薬で十分治療できる。
 最大の利点は医学的に価値の高いよい薬が安価だと言う点である。安価な薬を優先して使うということは医師にとってもメリットがある。薬剤費の約半分を新薬に使っている現在の処方を、ドイツ並みの10%程度に抑えるだけで、3〜4兆円が節約でき、医療技術料に振り向けることができる。定額払いのシステムを採用している医療機関も多くなってきた。できるだけ安価でしかもよい薬の処方を心掛ける医療機関にはエッセンシャルドラッグ・リストは必須だ。
 そして、これは単に金の問題だけでない。よい薬を厳選して使う姿勢を持ち、実行していくことが、医療そのものの品質向上につながるはずだ。その大切さはいくら強調しても強調し過ぎることはない。