NPO法人医薬ビジランスセンターでは、7月4日、井村伸正薬事・食品衛生審議会、薬事分科会長に対して、新たな問題点を指摘した、0.03%プロトピック軟膏の発がん性に関する意見書(2)および、7月9日、同意見書(3)を提出し、慎重な判断を求めました(なお、基本的に同内容の意見書を、豊島聰医薬品医療機器審査センター長にも同時に提出し、安倍道治厚生労働省審査管理課長および、薬事分科会各委員にも、分科会長に宛てた意見書を送付しておきました)。
意見書(3)は、意見書(2)提出後、さらに検討を加え、濃度−反応関係の解析で用いる濃度(AUC値も含めて)に対数値を用いて再解析し、意見書を作り直したものです。
また、タクロリムスの全血濃度測定方法として、0.025ng/mL、あるいは0.05ng/mLを検出限界とする感度も精度もよい検査法が開発されているにもかかわらず、小児も含め大部分の臨床報告で、検出限界0.5ng/mLの方法で測定し、しかも全血濃度が0.5ng/mLの場合は0ng/mLと読み替えて平均全血濃度を算出していることが明かとなりました。
このため、これらの問題点を考慮に入れて再度分析し直し、あらためて意見書(3)を作成しました。
したがって、意見書(3)は、意見書(2)の内容を包含しています。読者の方々には、意見書(3)を読んで頂くと良いと思います。
意見書(3)の概要は以下のとおりです。
マウス2年間がん原性試験の0.03%群、0.1%群の雌雄別データを用い、軟膏基剤群を対照とした各群の過剰がん発生割合を求め、各群の濃度曲線下面積(AUC)から求めた平均全血濃度との用量-反応関係を、ロジスティック曲線を当てはめて検討しました(図5)。
Pex=1/(1+e−1(5.5_(log(Cav)−0.90)))この理論曲線は、各群の過剰がん発生割合の95%信頼区間の中に十分に入っているだけでなく、極めてよい一致を示しています。
雄0.03%群の平均全血濃度5,8ng/mLの25分の1は0.2ng/mLでした。0.03%群より低い濃度が最小発がん用量の可能性はありますが、仮にこれが最小発がん用量とした場合には、国際的取り決め(ICHと言います)に従っても、0.2ng/mLが、臨床で用いられる最大用量での血中濃度(全血濃度)でなければなりません。
臨床的に使用して、少なくともこの濃度以下にならなければ、過剰がん発生が許容範囲(0.02%=5000分の1)に入らないと考えられることからみても妥当な判断です。
さらに検討しますと、人に免疫抑制剤として使用した場合のAUCとマウス実験のAUCはほぼ同レベルですが、小児では10年で30〜40%の悪性リンパ腫、それ以上の全がん発生の危険がありうることを考慮しなければなりません。したがって、同じ血中濃度であればマウスよりも発がんの危険は高いと考えられます。
このことを考慮すれば、人では、最大用量での血中濃度が0.2ng/mL以下でも、まだ、発がんの危険は許容できない可能性がありえます。
0.1%を用いた大人はもとより、0.03%を用いた小児でも半数以上は0.2ng/mLを超えていますから、最大用量での血中濃度は、当然それをはるかに超えます。したがって、発がんに関して、現在の濃度は安全とは決して言えません。
しかも、0.1%プロトピック軟膏の承認申請に添付された資料では、「対照群に比較して有意差のある0.03群のがん発生を差がない」としています。また、血中濃度は、0.025ng/mLあるいは0.05ng/mLまで測定が可能であるにもかかわらず、「0.5ng/mLを測定限界」としていますし、平均値算出の際、「0.5ng/mLは0」とみなしています。これらは、不正とも言うべきデータ操作ではないかと疑われます。
ここで検討してきた問題点を適切に検討すれば、0.1%プロトピック軟膏(の成人への使用)および、0.03%プロトピック軟膏を小児用として承認することは不適切と考えます。