(2003.07.31号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No27

  

サンデー毎日プロトピック軟膏を詳しく報道

厚労省が突きつけられた
アトピー性小児用新薬承認の「是非」
NPO「発がん性」指摘 で異例の「追加実験」へ

サンデー毎日(8月10日号:7月30日発売)

が,NPO法人医薬ビジランスセンターと医薬品・治療研究会が提出したプロトピック軟膏承認中止に関する要望書の内容と、それをもとにした薬事・食品衛生審議会、薬事分科会における審議の模様を詳細に報道した.(斜体字はサンデー毎日記事)

「期待の新薬承認」という華々しいニュースの裏で、意外な事態が起きていた。タクロリムスの発がん性に不明な点があるとして、厚労省が藤沢薬品に対して、何と動物実験のやり直しを指示していたというのだ。 ことの発端は、6月26日に開かれた薬事・食品衛生審議会、薬事分科会(中略)にさかのぼる。「これだけ発がんについての強い“指摘”がある以上、シロクロはっきりさせるべきではないか」「これを放置したら、親たちに『がんのリスクかアトピー治療か』というつらい選択をさせることになる。あまりに残酷だ・・・」 関係者によると、医学関係者や弁護士ら有識者からなる分科会では、数人から、小児用タクロリムスに対する厳しい意見が相次いだという。すでに分科会の下の医薬品第一部会で承認の方向は固まっており、本来、分科会では単なる「報告事項」の一つにすぎないはずだったが、部会への指し戻しを求める声も出るなど、実際には2時間の会合の半分近くがタクロリムスの安全性に関する議論に費やされた。異例ずくめだった。

そこで、委員の1人が「発がん性についての強い指摘」としたものが、NPO法人医薬ビジランスセンターと、医薬品・治療研究会が提出した「プロトピック(タクロリムス)0.03%軟膏の不承認を求める要望書」(速報No20)であること、その要望の要約、および、その下敷きになった論文が、島津氏と浜によるTIP誌の論文(速報No18)であることが紹介されている。要望書の内容については、以下のようにまとめられている。

その「要望書」では実験データに関し、主に3つの問題点を指摘している。

そして、動物実験のやり直しを求めることは決めたが、がんリスク情報の患者への提供など3つの条件つきでプロトピック軟膏の承認自体は「可」としたとし、その点を以下のように表現して報道している。

いわば左手でリスク評価の根幹を揺るがす追加実験を指示しながら、同時に右手で“安全”との太鼓判をおしているようなもので、何とも不可解である。

我々の解析方法に対してなされた分科会委員の1人の批判(統計解析法:多重解析の問題)、藤沢薬品の批判(マウス実験での対照のとり方:毛刈のみの群でなく軟膏基剤群だけを比較対照としたこと)についても紹介されているが、それに対する浜の反論も掲載された。

通常の使用での発がんリスクはないとする同社に対し、浜氏はこう反論する。「日本も参加している医薬品規制の国際基準『ICHガイダンス』に従えば、薬剤抜きの軟膏を塗ったマウスを対照に選ぶのが基本だ。血中濃度についてもガイダンスは、人での最大使用量における血中濃度が動物実験での発がん最低濃度の25分の1を下回るべきとしている。タクロリムス軟膏のマウスでの発がん濃度が0.03%とすれば、人との血中濃度比はわずか3〜4分の1だ。とても安全といえるレベルではない。」

まさに、薬のリスク評価の「グローバル・スタンダード争い」とも呼ぶべき様相を見せ始めているのだ。

アトピッ子地球の子ネットワークの赤城智美事務局長のコメントは患者の声として重要だ。

「問題はアトピー治療の現場で薬のリスク情報がきちんと患者に伝わっていないこと」(中略)「成人用タクロリムスについても『これ効くからつかってごらん』としかいわれず、副作用が心配でウチに相談の電話をかけてくるケースが後を絶たない。そうした背景を無視して『条件をつけたから大丈夫』とさっさと承認してしまうのは手抜きです。」(後略)

最後に、医薬品・治療研究会別府宏圀代表のコメントで締めくくられている。

「この国では、いったん薬が許可されると、動物園の檻を開けはなったように無制限に使われる」という別府氏の嘆きを、厚労省や製薬会社はどう聞くのか。

TIP誌7月号に掲載した「プロトピック軟膏と発がん」に関する最新の分析結果を、速報で近日中に紹介する予定である。


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