(2005.11.22号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No62

よくある質問への緊急回答:
  タミフルの害と利益
    そのバランスをどう考える?

NPO法人医薬ビジランスセンター  浜  六郎

インフルエンザの特効薬のように言われているタミフル服用後の突然死、異常行動からの事故死について11月12日に学会報告して以来、多くのマスメディアから取材を受け、お答えしてきました。

しかし残念ながら、多くの場合は、その断片しか伝えてもらえません。一般の人からも同じような疑問が投げかけられています。そこで緊急に、多くの人の抱く疑問に対して、重要なポイントに絞ってお答えしたいと思います。被害情報も近々、できる範囲で公開したいと考えています。

  1. インフルエンザとは:

    インフルエンザは流行性感冒という名前があるとおり「感冒」つまり「かぜ」の一種で、暖かくして安静にしていれば自然に治まります。だから、ヨーロッパではふつう、インフルエンザやかぜでは医者にはかかりません。日本の治療が世界の常識からかけ離れているのです。

  2. タミフルとはどんな薬:

    タミフルは決して特効薬ではありません。症状を少し抑えられることがある程度です。A香港型や昨シーズンのB型には効きませんでした(学会でもそういう報告が多数あります)。喘息を持った子供では逆に治りが遅くなる子が増えました(詳しくは『薬のチェックは命のチェック』No12改訂増補版参照)。

    インフルエンザの予防には効きませんし、嘔吐や頭痛は多く、糖尿病が悪化したり発病したりします()。3歳未満の子に使うと、使っている間に30%の子のウイルスがタミフル無効の耐性ウイルスに変わります。

  3. どうして日本だけがたくさん使っているのですか:

    「インフルエンザはかぜじゃない」など、恐怖症をあおる情報が意図的に流され、多くの人の脳裏に植え付けられたからだと思います。2000年までは、きつい解熱剤(ボルタレンやポンタールなど非ステロイド抗炎症剤=NSAIDs)をよく使っていて、そのためにインフルエンザ脳症で死亡例が多発しました(『インフルエンザで脳症にならないために』)。「脳症」が起こるかもしれないので、「インフルエンザ怖い」という宣伝が行き渡ってしまったのですが、実は、2000年以降きつい解熱剤の使用が減って死ぬような脳症はほとんど姿を消していました。一方、死亡しないけれども後遺障害が残る脳症は、テオフィリンや抗ヒスタミン剤などの副作用が原因で起きますが、最近ではそうした例の割合が増加しています(『薬のチェックは命のチェック』No3No5)。

  4. 副作用にはどういうものがありますか?:

    私が報告したように、幼児では睡眠中の突然死、大きな子では幻覚や異常行動から事故死が実際に起きています。大人でも起きます。世界で大人も含めて70人以上の死亡例が報告されています。報道されてから、当センターには約30人、異常行動や突然死の副作用ではないかとの相談が寄せられていますし、今日(21日)も睡眠中突然死した方の家族から相談がありました。呼吸異常から死亡したと思われる方もいました。そのほか、厚労省には、死亡率の高い重症の皮膚障害や、ショックも報告されています。

  5. 因果関係は確認できないと言われますが:
    1. 専門家の多くが、「熱でも起きる」「別の薬でも起きる」などと言っていますが、14歳の子は熱が下がって(37度5分)から異常行動を起こしていますし、タミフルしか飲んでいません。ですから、その指摘は当たりません。

    2. 厚労省が、幻覚の例を持ち出して注意を喚起しています。タミフルと無関係だと言うのなら、注意喚起は必要ないはずです。関連があるからこそ、注意喚起したのでしょう。

    3. 「インフルエンザ脳症が原因。薬は無関係」という指摘もありますが、従来の死ぬようなインフルエンザ脳症の原因は「きつい解熱剤」でした。重要な点をもう2、3挙げておきます(詳しくは速報No61参照)。なかでも大切な理由を以下にあげて起きましょう。

    4. 呼吸抑制による突然死は、製薬会社が行なった3つの動物実験で確かめられていることです。これは大変重要なことです。

      それに、

    5. 一見、別と思われがちな呼吸抑制と幻覚や異常行動は、同じ薬理作用によるものです。つまり、睡眠剤や安定剤、麻酔剤、アルコールはある量では異常行動を起こす人があり、大量使うと脳の働き全体が抑えられて呼吸中枢まで止まり呼吸が止まります。これは幻覚や異常行動とタミフルとの関連を考える場合にたいへん重要なことですし、薬理学の常識です。

    6. 厚労省やアメリカFDAでも関係を否定しようという動きがありますが、動物実験の結果やこうした薬理学的常識について考慮した気配がありません。

    7. これまでの薬害事件でも、いつも、はじめは因果関係が否定され、後手後手に回って被害が大きくなりました。日本だけでなく今や、アメリカも薬害大国です。薬害エイズはアメリカや日本で多発しましたし、Vioxxという新薬(抗炎症剤)による空前の薬害が今米国で大問題になっています。

       
  6. タミフルは安心して飲めますか:

    とても安心して飲めません。突然死や異常行動の場合、最初の1服で副作用が起きています。飲んだあと気をつけていれば害を防ぐことができるというものではありませんから、安心できません。

    夜寝る前に服用したら翌朝には冷たくなっていたという例をみると、夜中にもずっと看病しておく必要があります。寝返りをうったことを見届けてから10分後には呼吸が止まっていたという子もいます。呼吸の異常に気づいて自家用車で病院連れて行く1時間くらいの間に呼吸が止ってしまった子もいます。

    このように注意していても防ぎようがない例が多いのです。今回の14歳の子でも30分間、目を離した隙に、異常行動が始まり、事故死しています。

    その意味で、服用してしまったら、本当に目が離せませんし、安心できないということです。そして、1回の服用で副作用が出るか出ないか、前もって知ることはできません。

  7. この冬のインフルエンザにはどう対処すればよいですか:
    1. 自然に治まる「かぜ」に、死ぬかもしれないという害がありうるタミフルを使うかどうか。つまり、害と利益とのバランスを考えて決めるべきです。インフルエンザは安静にしていれば必ず治る、かぜの一種なのですから、 利益は、症状が治まるのを1日早める程度です。一方、まれとはいっても死ぬかもしれない害があります。このほか、大人もふくめて世界では70人以上の死亡が報告されていますし、当センターには、死亡した方を含めて続々と相談があります。

    2. 私自身、インフルエンザにかかってもタミフルは絶対使いません。解熱剤も使いません。強調したいのは、安静にしていればおさまる「かぜ」だということ。その「かぜ」で、タミフルを飲めば死ぬような副作用も起こるかもしれないということ。飲むときはそのことを考えてからご自分で決めてくださいと申し上げたい。

  8. 具体的に治療はどうすればよいですか:

    まわりにインフルエンザが流行っていて、熱が出始めたら、はじめに言ったように、暖かくして安静にしていれば自然に治まります。医者にかかる時には、一番つらい時に受診して待たなければなりません。その時間があれば、家ではやく寝るに限ります。薬は使わなくてよいのです。

    そういう世界的常識に従っていれば、何も怖くありません。現に欧米では、アスピリンを使わなくなって脳症の一種「ライ症候群」は起きなくなりましたし、タミフルを使わなくて(使わないから)インフルエンザ脳症は問題にもなっていません。タミフルはインフルエンザ医療には必要ないのです。

  9. 予防にワクチンやタミフルは必要でしょうか:

    インフルエンザワクチンには予防効果は全くありません。専門家が重症化を防ぐとか言っていますが、臨床試験とはいえないような間違った方法での調査があるだけですから信用できません。群馬県前橋市医師会の大規模な調査で無効であることは証明されています。その時からワクチン製法は変わっていません。

  10. 新型インフルエンザについては:

    まず知っておいてほしいのは、今、東南アジアで発生しているのは鳥インフルエンザです。大流行が起きると心配されているのは、今の鳥インフルエンザではなく、さらに変異して人から人へと流行するかもしれないと言われている新型インフルエンザです。

    流行が本当に来るのか、流行したとして、今の日本でそんなに死亡するのか、全く不明です。しかも、A香港型やB型インフルエンザに効かないタミフルが、この新型インフルエンザに有効かどうかは、わかっていません。

    今の騒がれ方は行き過ぎと思います。あまり過剰な心配は禁物です。新型インフルエンザの流行による死亡の程度などを確かめることなく慌ててタミフルを使用すれば、新型インフルエンザで死亡したのか、タミフルで死亡したのかわからなくなります。

    もっと、冷静にみてよいのではと思います。


市民患者が「ほんまもん」の情報を持つことが真の改革につながる
薬の「ほんまもん」情報は『薬のチェックは命のチェック』で!!