(2005.01.18号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No47

イレッサ検討に際し考慮すべき事項を要望

NPO法人医薬ビジランスセンター(NPOJIP)と医薬品・治療研究会(TIP誌)共同で


ISEL試験は「イレッサは日本人にも無効」を示している

偏りある不適切な情報にごまかされてはいけない

医薬ビジランス研究所   浜  六郎

はじめに

2004年12月17日、アストラゼネカ社1-2)により公表されたイレッサの肺がん患者に対する延命効果をみたISEL試験の結果、イレッサには非小細胞肺がん患者に対する延命効果がないことが示されました。その結果を受け、米国の医薬品規制当局であるFDAは、イレッサの市場からの回収も視野に入れた対応策を検討する旨の声明を出しました3a,3b)。この声明では、現在イレッサを使用中の患者はすみやかに医師に相談すること、代替薬としてドセタキセルやタルセバ(日本未承認)が利用できるとも述べています。

また、欧州では承認申請中のイレッサをEMEA(European Medicine Agency:欧州医薬品局)が承認する見込みがないとして、アストラゼネカ社は承認申請を取り下げたと報道されています4,5)

これら、FDAおよびEMEAのイレッサに対する取り扱いは、当然の措置であると考えますが、日本においては、イレッサの製造販売メーカー・アストラゼネカ社が、ISEL試験の部分的解析結果を提示し、東洋人(日本人以外)で延命効果が示唆されとの趣旨の主張をし、これを「改善につながることが示されている」とする早まった報道5)もなされています。

このような中、2005年1月20日、厚生労働省内において、このISEL試験をどう解釈すべきかを検討するための会議が開かれます。

NPO法人医薬ビジランスセンターと医薬品・治療研究会は、これまでイレッサの問題を検討してきましたが、今回、これまでのイレッサの毒性試験や臨床試験結果と、ISEL試験を総合的に検討し、検討会各委員と厚生労働省担当者に対して検討すべき問題点をまとめて要望書を提出しました。要望書提出前文とともに、ご参照ください。

私たちの検討結果では、アストラゼネカ社が主張しているような、東洋人(日本人以外)における延命効果の証拠はなく、その可能性はほとんどないと考えられました。

その主な理由は、

  1. 市販前の臨床試験(IDEAL-1)では、日本人と非日本人(大部分欧米人)とで、腫瘍縮小効果に民族差はないとされていたこと(別添資料-1参照 6)
  2. 今回のISEL試験で延命効果が示唆されたとメーカーが主張する東洋人の対照群の「喫煙歴なし」の人は、生存期間中央値4.5か月。これは対照群喫煙者の6.3か月に比較して極端に短いので、東洋人で喫煙歴のない人には、著しい偏りが考えられること(別添資料-2参照)(非東洋人では、喫煙歴のない人の7.1か月の方が喫煙者の4.8か月よりも長く、これが一般的な結果ですから)。
  3. 一般に延命効果を見る成績を提示するなら、背景因子に偏りがないことを最初から示すべきであるのに、それをしていないことは、むしろ卑劣な提示のし方です。
  4. ISEL試験における東洋人の結果は、IDEAL-1の結果や一般常識とは矛盾するため、信頼性に乏しいと考えるべきこと
  5. したがって、今回ISEL試験において示された非東洋人の結果、すなわち「寿命延長効果がなかった」との結果が、日本人にも当てはまると考えられます。

毒性試験の結果や臨床試験結果に関してこれまで7-8)私たち(NPO法人医薬ビジランスセンター、医薬品・治療研究会)は薬害オンブズパースン会議9,10)とともに、アストラゼネカ社や厚生労働省に対して要望書や質問状を提出し、使用中止を要請し、また情報開示を求めてきましたが、アストラゼネカ社も厚生労働省も求めに応じていません。

そうした経緯もあり、今回のISEL試験の結果を受けても、イレッサの評価は何ら変わることはありません。私たちがこれまで主張してきたとおり、あるいはむしろこれまで以上に積極的に、イレッサの承認取り消し、販売中止、承認申請データの全面的公開が必要と考えます。

1月20日のゲフィチニブ(イレッサ)問題検討会委員と厚生労働省担当者に対して提出した要望書とその要望書前文はこちら【要望書前文】【要望書】

参考文献
  1. アストラゼネカ社のプレスリリース
  2. アストラゼネカ社(英国)のプレスリリース
    (a)(英語)
    (b)(日本語訳)
  3. FDAの声明
    (a) (原文:英語)
    (b) FDAの声明の翻訳
  4. 欧州でのイレッサ承認申請取り下げの報道
  5. 欧州でのイレッサ承認申請取り下げに関する日本の報道、および、東洋人での生存に対する結果の解釈
  6. イレッサ錠250新薬承認情報集、p491(臨床試験2)
  7. 『薬のチェックは命のチェック』速報版No10「質問書提出,使用中止を要望」
  8. 『薬のチェックは命のチェック』速報版No12「完全拒否回答全文とその批判」
  9. 薬害オンブズパースン会議
    「イレッサ承認申請資料の情報公開請求訴訟」提起
  10. イレッサ緊急要望書

市民患者が「ほんまもん」の情報を持つことが真の改革につながる
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