この本は、安定剤や抗うつ剤など、精神に働く薬剤の害とそれが起きる理由について書かれた本ですが、薬害と薬害が起きる原因を考えるためには欠かすことができません。
日本は、いまこの本に書かれている方向にまっしぐらに進んでいる。私たち(NPOJIPやTIP)が日本の医薬を巡る動きについて感じ、訴えてきたことが、非常に説得力のある分析と言葉でわかりやすく書かれている。日本ではサリドマイドをはじめ、スモン、クロロキン、コラルジルなど大規模な薬害が繰り返されてきたが、米国ではサリドマイド被害を食い止め、ヨーロッパではサリドマイド薬害は出したものの、その後規制を強化した結果、スモンやクロロキンなどのような大規模な薬害を見ることはなかった。そのため、欧米では医薬品規制がきちんと行われていると思っている人も少なくないのではないだろうか。
しかし、薬害は決して日本に特有の現象ではない。経済活動のグローバル化により、薬害を生む構図も世界共通のものとなっている。むしろ現実には、日本の製薬企業も参入して日米EU3極の巨大製薬企業が、莫大な資金を投入して、医療・教育の分野はもちろんのこと、行政・福祉・マスメディアなどにもその強大な影響力を広めつつある。治療ガイドラインの作成、診断基準の歪曲、新たな疾患概念の導入など、一見科学的な装いを凝らしながら、真実のデータを隠し、医療界の支配を目論んでいる、彼らの意図を見逃してはならない。薬害を生み出すプロセスは、目立たないがいま着実に進行しつつあることを読者は理解されるに違いない。(本書「出版にあたって」より抜粋、改編)
原著の筆頭著者チャールズ・メダワー氏は、英国でソーシャル・オーディットというNPO組織を立ち上げ、その代表者として医薬品と医薬品行政を監視する活動を長年してこられた方である。2004年11月には第4回医薬ビジランスセミナーの特別ゲストとして来日され、パキシル(一般名パロキセチン)の害の問題を中心に製薬産業や医薬品規制の問題についてわかりやすく、そして誠意溢れる講演をしてくださいました。