医薬ビジランスセンター(NPOJIP)へようこそ

理事長挨拶

            

病気に関する講義では科学的で理路整然と説明していた教授が、薬剤の話になると、突然科学的でなくなる――医学部の学生だった頃に強く印象づけられたことです。そのため、臨床現場では、先輩医師の処方をまねて治療法を身に着ける多くの医師のやり方には全くなじめず、処方は独学でしなければなりませんでした。卒業した翌年の1970年には、神経難病スモン(SMON)の原因がごく普通に処方されていた下痢止めのキノホルムという薬剤だということが分かったので、なおさらでした。

診療中に経験した害反応(副作用)は自分の処方の改善だけでなく、他の医師にとっても重要なはずとの思いで、害反応例を収集するモニタリングのシステムを作り、情報発信を心掛けてきました。


そうした折、製薬企業の影響を受けることなく中立的立場から医薬品情報を提供するとの趣旨で世界各国にできつつあった独立医薬品情報誌を日本でも作らないかとの呼びかけがあり、1986年、TIP「正しい治療と薬の情報」誌を創刊し、別府宏圀医師とともにその執筆・編集にかかわってきました。

1996年に『薬害はなぜなくならないか』(日本評論社)を執筆したのを機に、医薬品を批判的に吟味する専門家の必要性を強く感じ、私自身がその任にあたろうと、医薬ビジランスセンターを設立し、2000年4月にNPO法人としての認証を得ました。そして、設立の趣旨にもあるように、科学的根拠に基づいた情報を医薬専門家だけでなく、広く市民へも発信することを当センターの活動の柱としています。

医薬専門家向けのオーストラリアのガイドラインシリーズの翻訳・出版、2001年には、一般向け独立医薬品情報誌「薬のチェックは命のチェック」(通称『薬のチェック』)を世界に先駆けて創刊しました(創刊のことば参照)。

単行本も、「暴走するクスリ-抗うつ剤と善意の陰謀」「インフォームドコンセント」「くすりで脳症にならないために」「ユネスコ生命倫理学必修」「くすりの害にあうということ」など発行してきました。


私たちが届けようとしている情報は、目先の一時的な利点にとらわれることなく、寿命を延ばし、生の質(QOL)を高め、人々の健康に資すること、またそう努力する医薬専門家の診療に役立つ情報です(専門家向け薬剤の評価方法は、私が起草を担当したISDBマニュアル第8章:TIP誌2014年6月、8月号に翻訳と解説を掲載:をご参照ください)。

薬害にあわず、適切な医療を受けるには、どのように考え行動すればよいのか、を一人でも多くの市民・患者が身につけることができるようにとの思いで情報を発信しています。


『薬のチェックTIP』創刊号のEditorialでも述べましたが、新しい機序の薬剤の開発ラッシュが続き、医学界や規制当局が、製薬産業の援助で成り立っているといっても過言でない中、企業からの援助を一切得ることなく、本物の情報を提供する『薬のチェックTIP』の役割は大きいと、ますます強く思います。

厳しいご批判とともに、単行本ともども、一人でも多くの方に読んでいただくことが、私たちの批判的吟味による情報提供活動には不可欠です。ぜひ他の方々へも広げていただき、良い情報づくりの応援を、よろしくお願いいたします。

2015年1月 NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック) 浜 六郎