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書評コーナー

「薬のチェックは命のチェック」で取り上げた書籍を紹介しています。

季刊誌29号より

医療の限界

小松秀樹・著/新潮新書

医療の限界

好意的に読まなければ、かえって患者と医療者の間に壁を生んでしまう可能性のある本だ。 医療従事者が日々直面しているさまざまな矛盾、士気の喪失、大学医局制度を含めた医療システムの不条理、 医療訴訟における司法と世論の問題などに鋭く言及しており、興味深く読めた。
 だが、「死を受け入れない」「医療に100%の安全を求める」など患者が質的に変化した、と斬り込んでいるにもかかわらず、 それは医療者やマスコミがそうさせたかもしれないといった面や患者との心の乖離という医療従事者自身の大きな問題には触れていないのが気になった。 多くの問題に関して全体的に冷静な視点で論を進めている以上、それに触れないのは不自然であるし、そのバランスの悪さゆえに、 医療者の言い訳を代弁しているように見えてしまう。
 しかし著者は医師として、可能な限りの安全を提供しよう、医療を良くしていこうと真摯に取り組んでいて、表立って議論されることのない、 普通の医療者では言及しにくい課題についても議論しているので、一読の価値は十分にあるだろう。(く)


■ 17.4×10.9cm 220頁/本体価格700円(税別)

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