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書評コーナー

季刊誌37号より

牛を屠る

牛を屠る

佐川光晴著/解放出版社
 ■13cm X 18.8cm 140頁 価格1500円(税別)


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本書には、「屠殺」という語が用いられています。今では「と殺」と言い換えられ、「食肉処理」も用いられます。 しかし現場で働く人たちは、牛や豚を肉にする作業をしており、その行為が「屠殺」なのだと著者の佐川氏は言います。

「屠殺」は部落差別も絡まり、差別的に用いられたことが言葉の言い換えにつながっています。 著者自ら、個人的な事項と「屠殺」の仕事をいたずらに結びつけた経験を、自戒の念を込めて述べています。 しかし言葉の言い換えは、事実を見えづらくすることはあっても、差別意識の克服にはつながりません。

私にとって、祖父母の思い出は牛の鳴き声とにおいの中にあります。祖父母の生業が「屠殺」で、それを「口外するな」と 戒められました。私の中で澱のように固まっていた戒めは、部落問題と出会うことで解けました。 その戒めにある祖父や親の真意に思いを馳せるとき、単に事実を知ることと事実に向き合うことの違いを感ぜずにはいられません。

本書は著者が「屠殺場」で働いた経験が元になっています。牛や豚を肉にする仕事がどのようなものなのか、 その現実を知りそれに向き合ってみてください。(み)