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書評コーナー

季刊誌49号より

「甘え」の構造

「甘え」の構造

■土居 健郎 著 /弘文堂(増補普及版 2007年)
  (初版は1971年、弘文堂刊)
 ■ISBN-10: 4335651295
 ■ISBN-13: 978-4335651298
 ■18.8 x 13 x 2 cm 318頁 価格1300円(税別)


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初版が出た頃、評者は十代でよく覚えていないが、メディアは、日本社会の「甘え」の構造を批判している本、という扱いをしていたように思う。 論文で孫引き、ひ孫引きの引用や解釈があるとき、原本で確認しないと往々にして誤解のもとだ。 我田引水の引用であったり、読み間違えていたりするからだ。本書を今回じっくり読んで、そのことを思った。

著者は、日本人や日本社会「だけ」が「甘え」の構造にある、と言っているわけではない。 本来、ヒトは大人の世話を必要とする状態で生まれてくる。乳幼児は大人(とくに母親)に甘えつつ、 それぞれの民族・言語・文化の中で育っていく。「甘え」は人間関係の潤滑油でもある。だが、現代は、 「いい甘え」が自己責任という名のもとに非難され、一方では甘ったれ、甘やかしが横行している。 欧米でも宗教的な枠が弱まり、甘えが表に出てきた。今や東西を問わず、甘ったれの子供の世紀になってきたのではないか?と 著者は問うているのだ、と思う。普及版には「甘え今昔」「甘え再考」を収載。今になって本書を読もうと思ったのは、 大人の甘ったれ(評者にはそう思える)に出会って息苦しくなることがあるから。(さ)