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書評コーナー

季刊誌55号より

絶望の裁判所

絶望の裁判所

■瀬木 比呂志 (著)/講談社現代新書
 ■ISBN-10: 4062882507
 ■ISBN-13: 978-4062882507
 ■17.2 x 10.6 x 1.8 cm 240ページ 価格760 円(税別)


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筆者は、東京地裁や最高裁にも勤務したこともある元裁判官で、米国留学の経験もあり、研究・学会発表・論文執筆も行い、 文学・音楽・映画などへの造詣も深く、一般の世間知らずの裁判官とは異質の人物である。東京地裁での最初の仕事は左陪席としてのクロロキン薬害訴訟であった。 この判決では、製薬会社と国の責任を認めている。

筆者は、日本の裁判官が人事や出世ばかりにうつつを抜かすようになる仕組みとして、裁判官の世界が精神的な収容所であること (自身が精神的奴隷であるのに、どうして人々の権利を守ることができようか?)、全国にまたがる転勤システム (体制批判的な判決を下した者にはどさ回り)などを挙げている。日本の裁判官が忙しすぎるという意見に対しては、 決して忙しくないと異議を唱えている。

本の帯に「裁判所の門をくぐる者は一切の希望を捨てよ!」との惹句があるが、あとがきに音楽好きらしく、 ボブ・ディランの「もし、自分が存在している意味があるとすれば、みんなに不可能が可能になるって教えてやることだ」 という言葉を引いている。袴田事件の再審を認めたまともな裁判官もいる。そのような裁判官を孤立させない努力が我々に求められている。(き)