「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第 2回 一人一人が目を向けて医療行政の監視を

  

1997年7月15日

 

【薬害を生む構造】
 TIP誌の編集や、そのための研究を通じて得たことを、『薬害はなぜなくならないか』にまとめたが(1996年11月発刊,日本評論社)、その中で指摘した「薬害を生む構造」とは、(1)危険/無効なものが安全/有効と過大評価され、(2)高い値がついて売られ、(3)薬価差益と過大評価の情報のため、高価なものほど多用され、その結果、(4)製薬企業が得た潤沢な資金は、(5)宣伝販売活動に使われ、(6)公的な研究費不足から、研究者/専門家による評価のための研究や情報に影響を及ぼす。(7)診療、研究、企業の営業、行政活動の記録の開示がなく、(8)罰則規定がない結果、(9)危険/無効な物質の使用、薬剤多用に規制がかからず、その結果、(10)3兆円の医療費の無駄遣いと、(11)薬害が多発する。というものだ。
 端的にいえば、毒にもなり経済的にうま味のある「薬」によって利益を生む構造、独自の法体系を持ち、外部に情報を開かず、組織への絶対服従と逸脱者の排除を特徴とする『薬剤シンジケート』と呼ぶべき組織と構造によって生み出されていると言える。 一九九六年六月、菅厚生大臣(当時)に公的監視組織を提案した。この構想はその後、市民による監視活動の必要性の認識に発展。その活動を支えるためには、薬や治療法の良い悪いを科学的根拠に基づいて評価する仕事(根拠作り)に専念する医師・薬剤師など専門家集団が必要だ。

 民間監視組織:医薬ビジランスセンターJIPとTIP誌
 私は、病院内科医師として勤務しながらTIP誌を通じてこの活動をしてきたが、二十年間勤務した病院を退職し、一九九七年四月、医薬ビジランスセンターJIP(Japan Institute of Pharmacovigilance)を設立した。vigilanceとは、公的な監視ではなく「民間による監視」を意味する。
 JIPは調査・研究が主たる活動で、TIP誌や六月に発足した薬害オンブズパースンへの情報提供をはじめ、価値ある薬と無価値/有害なものとの区別のノウハウの普及、医療者の行動の変革まで押し進めるための工夫もしたい。変革に重要なのは、単なる知識でなく、一人ひとりの意思と行動(behavior)が変わるかどうかだからだ。シンジケートの批判だけでなく、私たち自身がシンジケートの一員として行動していないかどうかを見つめ直し、薬と薬の行政および現場での使用の監視に一人ひとりが目を向けるべき時だと思う。
 JIPはその応援をします。資金は大丈夫かと皆さん心配して下さいますが、JIPが成り立たないようでは、日本の薬や医療はまともにならないのだからと楽観しています。